Ⅵ 破壊

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 神殿の町の周りに広がる砂漠の手前にある、トチという町の入り口で、昂は馬を止めた。  ドナ爺の馬は素晴らしかった。追手を振り切ると、まっすぐここまで昂を運んでくれた。  昂は馬にしがみついているだけでよかった。馬は何もかも分かっているというふうに、昂を振り落とすこともなく、ここまで連れてきてくれた。  乗馬に慣れてきた昂は、遠くに見える白い大きな神殿と、それを取り囲む砂漠を見て、トチの町で馬を止めた。  かといって、金があるわけでもなかったので、近くに木に馬を繋ぎ、馬の手綱と自分の腕を繋いで、木の側で丸まって眠りに落ちた。  小さな女の子が泣いていた。  昂が慰めようと近づくと、涙だと思っていたものは、血だった。そしてその眼窩には何も埋まっていなかった。昏い穴のような空洞に、昂は言葉をなくす。  女の子がつと何かを指さした。  昂が振り返ると、男の子が立っていた。  何か叫んでいるように見えるが、何も聞こえない。  男の子はもどかしそうに喉を押さえた。  やがて喉を掻きむしり始める。喉は裂け、血が噴き出した。  昂は慌てて走りよる。  その時天から手が降りてきた。  手が降りてきた。そうとしか言いようがない。巨大な両手が天から降りてきて、片方の手が女の子の眼窩を撫でた。もう片方の手は、男の子の喉を撫でた。  すると、女の子の瞼と、男の子の喉は金色に光りはじめた。  今度は、地の底から、音が響き始めた。いや、音ではない。声だ。  オモイダセ  オモイダセ  ジブンノナヲ  オモイダセ  ツガイノナヲ  彩の瞼が開き始め、奏の声がほとばしり出ようとする。  昂は叫んだ。 「(さい)(そう)!」
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