Ⅵ 破壊

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 反響する音の嵐と地面の揺れに、人々は恐慌状態に陥っていた。場所が場所だけに、太陽神の怒りに触れたのだと、必死で天空(そら)に向かって祈っている者もいる。  逃げたいのだが、どこに逃げればいいのか分からず、群衆は右往左往するばかりであった。  昂はその人込みをかき分けて、奏の許に行こうとするが、なかなかたどり着けないでいた。外庭は昂から見える位置にあるのだが、そこに行くには建物をぐるりと周っていく必要がある。だが、この人込みでは、どれだけ時間がかかるか分からない。昂は奏から目を離したくなかった。  目に映る奏は、我を忘れているかのように見えた。喉から出る音に、もだえ苦しんでいる。  昂は石垣に手をかけると上り始めた。石を組み合わせた壁には凹凸があり、そこに指をかければ、何とか上ることが出来そうだった。ただ、矢を受けた左肩は痛みがあり、痺れている。自分の身体を支えられるか、不安ではあった。だがそんなことは言っていられない。地面の揺れは少しずつ激しくなり、小さな石が上から転がり落ちてきた。このまま揺れが大きくなれば、石垣自体が崩れるかもしれない。  歯を食いしばり、脂汗を垂らしながら、昂はなるべく右手を使って、上り始めた。  彩は迷いなく走っているように見えた。  先ほどから聞こえてくる不思議な音と、地面の揺れに気を取られて、人々は傍らをかけて行く彩のことを気にも留めない。  燦はその後を追った。王女の正装で、金色の髪をなびかせて走る燦に、さすがに振り返る人もいた。だが皆それどころではないようだった。  彩のスピードは尋常ではなかった。  目が見えていたとしても、七歳とは思えない速さで、飛ぶように走っている。  不思議な音はだんだん大きくなり、燦も耳を塞がなくては耐え切れなくなってきた。  地面の揺れも激しくなり、踵の高い靴では、彩を追い続けるのは難しくなってきた。  それでも何とか視界の先に彩を捕らえて走り続けると、燦にも分かった。  あそこが震源地だ。  男の子が一人、口を押さえ、へたり込んでいる。だがその口から音が鳴り響き続けていた。それが地面も震わせている。  彩はまっすぐそこに向かっていた。  男の子の周りには、誰もいなかった。側には一体の死体。  しかし少し離れたところでは、人々が折り重なるように倒れこみ、呻いていた。  彩は構わず、人々を半ば踏みつけにしながら、進んでいた。  彩の横顔がチラリと燦にも見えた時、燦はぞっとした。  本当だ。目が開いている。  金色の目だ。  しかしその目には何の感情も湛えられていなかった。空虚な瞳に、金色の光だけが溢れている。  その目は光っているように見えた。 「彩!」  燦は不安に駆られて、もう一度叫んだ。だが、彩は反応すらしない。  やがて彩は、男の子の周辺の空白地帯までたどり着いた。  燦は恐怖を覚えた。  それはほとんど本能だった。  あの二人を会わせてはいけない。 「だめ!彩!」  その時、男の子の前に、誰かが割り込んできた。ほとんど崩れ落ちるように、男の子を抱きしめる。  肩には折れた矢が突きささり、服は土埃や血で汚れている。頭に巻いた黒い布を見て、燦はあえいだ。 「昂……」
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