第一章 ~転校~

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 あくる朝、僕は眩しい初夏の朝日に起こされた。 「眠たいなあ」  僕は一言つぶやくと、新しい制服を身にまとい、荷物を持って自分の部屋を出た。部屋があるのは家の二階だ。よろよろと階段をおりて、リビングに入ると、母がせわしなく仕事の支度をしている。まあ、これは見慣れた風景だ。 「あ、龍飛おはよう。ごめんね、本当は新しい学校に一緒に行って先生に話したいんだけど、仕事入っちゃって」 「気にしなくていいよ。僕も一応高校生なんだから」  母に向かって僕はとりあえずそう答えたが、本当のところはついてきてほしい気持ちもいくらか胸の中にあった。母は、僕の言葉に笑顔で返した。 「そうよね、もう高校生になるんだもんね。でも、何かあったら、ちゃんと言うのよ」  母はそう言い残すと、僕に弁当を渡してさっさと家を出て行った。  それから、母が用意してくれていた洋風の朝食を手早く済ませ、重い足を何とか動かして、夏の街へ一歩踏み出した。 「うわっ、暑い」  僕は思わず顔をそむけた。やかましいと言える蝉の声とともに、夏を象徴する熱気が、一斉に襲い掛かってきたのだ。空には、眩しい輝きを放つ夏の太陽が、その姿を煌めかせている。  僕は体中の汗腺から汗がにじみだすのを感じながら、学校へ向かって歩みを進めた。  過去の辛苦に染まった思い出に何度も足を止められそうになりながら……。
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