『パーラー・ボーイ君』

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 ある晴れた日の午後、お母さんがサシ歯を作ってくれたので、パーラー・ボーイ君はうれしくて、いろんな物をカジッた。イスにテーブル、食器や花。じゅうたんのカドッコにスリッパ、ドアノブ。階段の手すり、自転車のタイヤに、石、花壇のレンガ。白い塀、隣の家のイヌの後ろ足。オカマの捨てたシケモク。気がつくとパーラー・ボーイ君は家の外に出ていました。  近所の建設現場でベニヤ板をカジッていると、大工の親方が、 「おい、パーラー・ボーイ君。ベニヤはカジるものじゃなくって、切るもんだ」  とノコギリを渡してきました。パーラー・ボーイ君はためしにノコギリを使ってベニヤ板を切ってみると、なんだか楽しくなってきて、夢中になって切りました。すると、気がついた時には、山積みにされていたベニヤ板を全部切り尽くしていました。  パーラー・ボーイ君のあまりの働きぶりに感服した親方が、「若いのに、よく働くじゃないか」と日当をくれました。   日当にもらった小銭を、ジャラジャラやりながら、パーラー・ボーイ君が近くに住む叔父さんの家へ遊びに行こうと歩いていると、買い物帰りのヘチマばーさんが飢えたノラ犬にからまれていました。パーラー・ボーイ君はヘチマばーさんのことが嫌いなので、無視して通りすぎようとしたけど、ヘチマばーさんが、 「パーラー・ボーイ君、パーラー・ボーイ君。たすけて」  と名ざしで助けを求めてきたので、しかたなくさっき貰った日当の小銭を、骨の浮いた脇腹めがけて犬に投げつけて、追い払ってあげました。   ヘチマばーさんは、お礼にと、買い物袋の中からパーラー・ボーイ君にマーマレードをあげました。  パーラー・ボーイ君が家へ行くと、いつもは半裸で生活している叔父さんがスーツを着て出てきました。 「やあ、パーラー・ボーイ君。叔父さんはこれから、お見合いパーティーに行くんだ」  お見合いパーティーに行って、素敵な美女とフォーリンラブしようという高いこころざしとは、うらはらに、叔父さんの頭はこんもりとフルヘッヘンドしていました。こんな髪型じゃあ、どブスか結婚サギ師ぐらいにしか相手にしてもらえません。 「でもヘアークリームを切らしちゃっていて、困ってるんだよ」  よわり顔の叔父さんに、パーラー・ボーイ君は、コレを使いなよと、マーマレードを差し出しました。 「ありがとう。おかげでバッチリだ」  ビシッと横分けた叔父さんは、お礼にパーラー・ボーイ君にメガネをあげました。  その日の夕暮れ、パーラー・ボーイ君は空き地で、メガネを使って太陽光線を集めアリを焼き殺そうとしていたけど、日差しが弱くて、なかなか上手くいきません。  不意に後ろから頭をポカッとなぐられ、振りむくと、怒った顔のお母さんが立っていました。イタズラッ子のパーラー・ボーイ君は、いつも怒られているのでヘッチャラです。ニチャと笑ってごまかしました。  お母さんに手を引かれ、家路につくパーラー・ボーイ君が、頭を叩かれたときに外れてしまったサシ歯を見せると、お母さんは、 「また明日作ってあげるから」  と言いました。パーラー・ボーイ君は、どうせなら新しいやつは、この夕日みたいにオレンジ色のやつがイイな、と思いました。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!