煙草

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私はそれを拾い上げる。 ボールチェーンが付いている。 どうやらキーホルダーのようだ。 (しかし、これは何の生き物だ?犬?いや熊にも見えるし、狼にも見えるな。) 黄色のようでオレンジのようでもあるボディー、2本足で立ち、垂れ耳である。 口は前に突き出し、立派な牙が生え揃っている。 左目は円らな瞳だが、何故か右目は茶色のボタンである。 (何かのキャラクターかな。) 私は得体の知れないそいつを自分の目の前にぶら下げ、まじまじと見つめた。 「あの~、すみません。」 (!?) 私は急に背後から聞き覚えの無い声で話しかけられ、戦きながらも反射的に振り返った。 目の前にはやはり見覚えのない女性が立っていた。 私と同じ社章をスーツに付けている。 どうやら同じ会社の人らしい。 「えっと、その...何でしょう?」 ファーストコンタクトが背後からの不意打ち、加えて初対面で女性、既に私のキャパシティーを超えている。 しかし、一先ず失礼の無いように必死で取り繕う。 「それ、私のなんですよ。」 そう言って女性は私が手にしている妙ちくりんなキーホルダーを指差した。 「あっ、そうなんですか?」 私の目の前に立つその女性は清楚という言葉が似合う容姿だった。 そんな女性がこんな妙ちくりんなキーホルダーの持ち主で、車のキーか携帯にでもぶら下げているというのか。 何というか摩訶不思議である。 「昨日、ここに来た時に落としちゃったみたいで。探してたんですよ。」 「そうだったんですね。見つかって良かったです。どうぞ。」 一先ず私はキーホルダーを女性に渡す。 「ありがとうございます。可愛いですよね、この子。」 「そ、そうですね...。」 女性の可愛いほど私の理解が追い付かないものはない。 とりあえず私は彼女の意見に同意しておく。 「あっ、そろそろお昼休み終わりますね。じゃあ、また。」 そう言って、女性は腕時計を一瞥し、建物の中で消えていった。 後から本人に聞いた話だが、私の拾ったキーホルダーはロックバンドのマスコットキャラクターだった。
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