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今日も私は屋上で煙草に火を灯す。
「あっ、こんにちは。」
またあの彼女だ。相変わらず受動喫煙なぞどこ吹く風である。
「それ、何時も吸ってますけど美味しいんですか?」
私の持っている煙草を始めて会った時のように指差して彼女は言った。
「体に良いもんじゃないですよ?」
当然の事だが、お勧めはしない。
行き場のない感情を吐き出せる気がして吸い始めた訳で、自分自身これが美味いものなのかよく分からない。
だが、自分をわざわざ汚しているその間は何故か生きた心地がする。
「味見してみたいです、1本下さい。」
彼女が有無も言わさず手を伸ばしてきたので、私は1本渡した。
物珍し気に私のあげた煙草をしばらく見つめ、口で咥えてみせた。そのまま少し間が空く。
「ひぃつへてもらってもいいでれすか?」
ライターを持っているはずもなく、口に煙草を咥えたまま、彼女は手持ち無沙汰になっていた。
「どうぞ。」
私は左手に持っていた100円ライターで火を点けた。
彼女は唇をライターに近づけて、煙草に火を灯す。柔らかそうな髪が私の方へ揺れる。
「ところでこれ、どうやって吸うんですか?」
おかしな手の形で煙草を持ち、彼女はとぼけた顔でこちらを見る。
「深呼吸するイメージで肺に煙を入れて、吐き出してみて下さい。」
私がそう言うと、彼女は私の言う通りに深く息を吸い、煙を身体の中へ入れた。
煙草の煙が彼女を汚し、煙草の匂いが彼女に纏わりつく。
そして、彼女の口から煙が空へと飛ばされる。
目の前にいる女性が私の目には天使に見えた。
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