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忙しい毎日……、だ。
勤め人がこんなに大変だとは、学生時代に想像していた以上だ。朝、僕が出社する。へとへとになり帰宅して、寝るだけの生活が続く。
好きな本を読む時間も、テレビを観る時間もない。上司の部長に相談したら、『時間は自分で作る物だ』とあっさり突き放された。先輩方は新入社員の僕よりも、多くの仕事をこなしている。
やめちゃおっか? それとも、仕事に慣れるまで踏ん張るか? 夜、自室のベッドで横たわりながら考えていた。布団を被りながら、ナツメ球の仄かな光が、描く天井の小さな円を眺めていた。
その瞬間、耳元で若い女の声がする。
「あのー、買いませんか?」
高校生くらいの女性が、僕の顔を覗き込んでいた。疲れ過ぎた。おかしな夢をみるものだ。
ああ、高校時代が懐かしい。僕も、この女の子みたいに血色もよく、明るい表情をしていたはずだ。
「僕は女性を買うような男じゃありません。いらない」
「お客さん。しっ、失礼じゃない! わたしがそんな子に見えます? 商品はわたしじゃありません。それに、スゴく傷ついてます。わたし、激おこです!」
夢に出た変な人に謝罪しても、虚しくなるだけなので、枕を顔に押しつけ眠ろう。
ううっ、と声を押し殺したような泣き声が聞こえた。枕をどかす。女の子はベッドサイドで、指先で滴を払い、頬を涙が伝っている。
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