入部

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視線の先には俺達が注目していた前髪をくくった人がいた。 さっきまで遠目で見ていたから何とも思わなかったが目の前にして見ると、ある事に気付いた。 (身長…低い…170くらいの有都よりも断然……この人何センチだろ?) 少し遠慮気味にその人のことを見ていた。 初対面の奴相手にあんまりジロジロ見られるのもいい気はしないだろうから… 「……あっ、新入生か。」 「そーだよ、みんなやる気満々なんだ!頼もしいだろ?」 「ふーん…」 ウキウキして話す冴木さんに対し、この人は何やら不満そうに俺達を見回した。 「全員俺より背高くて…ムカつく…」 ボソリと呟くとこちらを睨みつけてきた。 俺は冷や汗を流し、良介と有都は目を丸くし、若干硬直。 それに対し、音長は同じように睨み返していた。 (この先輩…怖ぇ……) 「まあまあ、そんな事言うなよー。それにお前だってまだ身長が止まったワケじゃないだろ?」 冴木さんはニコニコしながら前髪をくくっている人の頭をポンポンとたたいた。 「やめろ、冴木。これ以上縮んだらどうしてくれんだ?ぁあ?」 「お、おお、まあ落ち着けってー。」 冴木さんの襟元を掴み、自身の腕を最大限にまで伸ばし、グイグイと持ち上げていた。 冴木さんは苦笑いをし、焦りながらも冷静に対処していた。 「叩いたぐれぇで縮むワケねぇだろ…」 音長が口元を押さえながらボソッと呟いた。前髪をくくった人はそれを聞き逃さなかった。 「ぁあっ?おい、今何か言ったか金髪ノッポ野郎。」 冴木さんから手を離し、ズンズンと俺達の方へ距離を詰めてくる。 音長の真ん前にくると、これでもかという程下から睨みつけていた。 冴木さんのように襟元を掴むのはちょっと無理なようだ。 俺も正直縮むわけないとは思ったが、口には出さないようにしていたのに…ほんとこいつは… 「叩かれたぐらいで、縮むワケないって言ったんですよ、そんなヤワな身体つきしてるんすか?先輩♪」 音長は嫌味ったらしく笑顔を浮かべ、真下にいる先輩を見下し挑発した。 ((なっ……!)) オレと良介は音長の態度に驚きのあまり言葉を失った。 有都はその様子をみて、やれやれといった表情で溜息をついていた。 「ヤワな身体つきなんてしてねぇよ?昔っから頑丈過ぎて困るくれぇだよ?」 「それはいい事じゃないですか?身長が"低い"分、骨がより丈夫に作られてるんじゃないですかね?」 「ああ、おかげ様でなぁ?お前みたいに伸びるだけ伸びちまってすぐにでもポキッといっちまいそうな骨とは出来が違ぇんだよ?あー、よかった、背が"低くて"」 「そうですかー、いいですね?その身長だと丈夫さ以外にも何かと得するんじゃないですか?高校生料金の所を中学生料金でいけたり?オレなんか中学ん時から背高くてよく大人に間違えられたんすよー、いやぁ大変大変。」 「へぇー、そりゃ大変だなぁ?人生半分ぐらい損してやがんなー。俺みたいに身長低い方が人生得するように世の中なってんだよ、このヤロー、羨ましいか?羨ましいだろ?」 「…………?」 「…!……?」 「「「「…………。」」」」 延々と互いに罵り合う二人を余所目に、しばらくその様子を伺っていた冴木さんが俺と良介と有都に目線で合図を送り、その場を去ろうとした。 「おい、どこ行く気だ?冴木。いつまでも新入生の守りなんてしてねぇでさっさと練習に戻りやがれ。」 視線をこちらに向け、睨みつける音長と先輩。 冴木さんはその声にビクッとすると、俺達にぎこちなく笑いかけた。 「う、…はいー。じゃあ、君たちも軽く体操したら練習に入ってもらってもいいかな?」 「えっ?もう入っていいんすか?!」 良介は目を輝かせた。 「うん。どのくらいバスケ出来るのか見ておきたいし。ちなみに、4人とも中学バスケ部?」 「はい。4人ともっす。」 「なら、話が早いや!ささ、入った入った!」 俺の答えに嬉しそうに反応し、冴木さんは前髪をくくった先輩を引っ張って先に行ってしまった。
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