スイッチ

新友

結局あの後、担任の先生が入ってきて、すぐにホームルームが始まった。
良介は持ち前のコミュ力のおかげか、早速三性と仲良くなっていた。
仲良くというよりも、良介が一方的に話しているのをうんうん、と頷きながら三性が聞いているだけだが…
その様子を見ながら、ひたすらモヤモヤしていた。

俺の記憶内の人物とこいつが一緒であるということを認めたくなかったからだ。

先生の話も終わり、今日の日程は一通り終了。
次は部活動見学の時間だ。

「行こうぜ、良介。」

良介に一声かけ、出入り口まで歩いた。
もちろん、俺達の向かう場所は…バスケ部だ。

「おう、ちょっと待ってー。…あっ、有都[アルト]も行くだろ？体育館。一緒に行く？」

良介は三性を誘った。
早くも下の名で呼ぶようになっていたのか…俺は名前すら紹介してない。

「あ、僕連れがいるから…先に行ってて。」

手をヒラヒラさせて、優しく微笑んだ。
三性が放つオーラは、フワフワしていて、まるで綿菓子のように柔らかい。

(こういうのを、癒やし系って言うんだろうな…)

ふと、そんな事を思っていた。

「あーるーとー♪お待たせっ。」

声のした方を見ると、出入り口にいた俺の目の前に身長の高い(190cmくらい)チャラチャラしたイケメン金髪野郎が立っていた。
身長172cm程の俺は思わず見上げてチャラ男を凝視した。

(……でかい。)
「ぁあ？…んだお前？」

チャラ男は俺の事を見下ろし睨みつけてきた。
その眼差しから目を背けることができず、互いに睨み合いみたいになってしまった。

(………ﾋｪｪｪ……)
「何喧嘩売ってるの。そこにいると邪魔だよ夜美[ヤビ］。」

三性が呟くように言った。
それに反応し、俺とチャラ男はそちらの方へと視線を向ける。

「あー、悪ぃーな。」

口では謝っていても、目付きは恐ろしいままで、思わず尻込みした。
とりあえず見た目ほど怖い人ではなさそう……

「すっっげぇー！身長高ぇなー！お前もバスケすんの！？」

目をキラキラと輝かせながら、飼い主を待っていた犬のように素早く寄りつく良介。
三性も用意を済ませてこちらへと寄ってきた。

「バスケ？んなもん……」

チャラ男が三性に一瞬だけ目線を移す。
そして再び良介に戻した。

「するに決まってんだろ。こんな身長だし、有都いるし。」
理由にならない答えを返されたが、良介は「だよなっ！」とかいって納得していた。

身長高いんだから、バレーとかも向いてるだろ…と、思いつつも口には出さなかった。

「有都がいりゃあ、全国も夢じゃねぇよ、なっ。」

三性の頭を片手で掴み、ワシャワシャとかき回す。
その様子はまるで、兄弟かあるいは親子のようにしか見えなかった。

(こいつ…三性と俺達に対する態度、なんか違くね？…ちょっとまてよ。こいつ、三性と仲が良いってことは、同中…？しかも、さっきの言動からしてバスケもやってるだろうし…)

再度長考に走る俺。
ワイワイガヤガヤと話す3人を他所に一人で考えこんでいた。
そして、自分の考えがまとまり、ようやく会話にまざることが出来た。

「なあ、お前…三性と同じバスケ部…だった？」

いきなり話しかけてきた俺に目線だけ向け、ぶっきらぼうに「ああ。」と答えた。

「色々と気になることはあるけど、あえて一つだけ聞いとく。本当にこいつが、あの"三性"なのか？チームのエースだった…」

少し口ごもる。

「そーだけど？」

問いかけに面倒くさそうに答えた。

「で、それがどうかしたの？」

チャラ男は少し首を傾げ、口の端を軽く上げて笑った。

(やっぱり…そうなのか…)

胸中のモヤモヤが消えたと同時に、落胆していた。

「…ん？…あっ、やっぱりお前、どっかで見たことあると思ったら！」

チャラ男が突然俺を指差して少し大きめの声で言った。

「中学バスケ最後の公式戦、決勝で俺らに負けて有都に宣戦布告かましてた奴だよな！」

そーだそーだ、と言いながら一人納得していた。
そして嫌味っぽく笑う。

「二色中のキャプテンだったろ？お前。だからそんな事を聞いてくんのか。」

相手チームの人が覚えていてくれたことに俺自身驚いていた。
まあ、あれだけ大胆なこと言ったんだ。
覚えられてても仕方ない。
横で聞いていた三性もあ、そっか…と納得していた。
お前には覚えておいて欲しかった
…てか、覚えてなかったのかよ！おい！

「今の有都はあん時の"エース"とは違う。」

チャラ男は頭の後ろで手を組み、三性に微笑みかけた。

三性は、？といった表情。
そして、俺と良介の方へと視線を移した。

「言ってみりゃ、今は"普通"ってとこかな？」
「「……は？」」

俺達は顔を見合わせ、疑問符を頭に浮かべる。
チャラ男は自慢げに笑うと、三性と肩を組み、「なぁー♪」なんて言いながら今度は優しく笑った。
三性は俺達と同様に困惑の表情を浮かべていた。

(今の三性と…あの時の三性は…違う？…てか、"普通"って何だよ…あの試合の時の三性は、異常だったってことか？)