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勇者、目覚める
あたしを呼ぶ声が聞こえる。初めて聞くような、どこかで聞いたようなそんな声。
泣き出しそう……っていうか泣いてるわねこれは。あたし誰を泣かせちゃったんだろう。
ごめんね、ごめん。今目を覚ますから待ってて……
「っはぁ!!」
ガバッと飛び起きる。上手く呼吸が出来ない。あたしどれだけ眠ってたの?
「勇者様!!」
……勇者?視線を声の方へ向けると超絶可愛い女の子がいた。心配そうに大きな瞳を潤ませてあたしを見ている。
「ここは……」
「ヴェリントンの宿です。覚えていませんか?勇者様は魔王軍の幹部に奇襲されて、それで……私を庇って……っ」
ヴェリントン……ヴェリントン……ちょっと待ってね、何だか思い出せそうな気がするの。
私が綾野侑李だったのは前の世界で今は……
「このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思いました、アヤユリ様」
そう、それ。アヤユリ。今のあたしは勇者アヤユリ。魔王軍と戦うために旅に出たのよ。この可愛い子、サーヤと共に。
「サーヤ、あたしどれくらい寝てたの?」
「えっ?え……あ、3日程ですね」
サーヤは不思議な物を見るような目であたしを見た。
……なんか一番大事なことを忘れてる気がしてきたわ。
ゆっくりとベッドから起き上がり鏡の前に行く。そこであたしはまた倒れそうになった。凄いイケメンが映ったから。
そう、あたしは今世では男だったのだ。
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