朝顔の夜

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送信:ベッドの中で抱きしめる相手がいません。 私は躊躇いを味わった指先を、かすかにふるわせて、送信を押した。 接続の悪いワイファイのマークが、スマホの左上でぐるぐる渦巻いている。 やがて我に返ったようにピタリと渦は消え、メッセージは送信完了となった。 約二年ぶりに、秋人くんに連絡をした。 秋人くんは、私にとって五人目の彼氏。二年前に別れたとき、私たちはまだ学生だった。 中学生の頃から彼氏彼女という口約束を転々としてきた私だったけれど、秋人くんはその中で一番変わったおとこだった。でも、一番忘れられないおとこでもある。 久々に秋人くんに連絡をしようと思ったのは、彼のたばこの空箱を見つけたのがきっかけだった。 当時、たばこを吸う友人が周囲にいなかったのを珍しがって、秋人くんの吸ったあとのものをいつも貰っていたのだ。 白くてちっぽけな箱に、脳卒中だとか肺気腫だとか、おだやかじゃない警告文が並ぶのが、なんだかクールだった。 ひと箱、またひと箱とコレクションが増えるたびに、私は秋人くんと過ごした年月を想った。 空箱が十も二十も入った箱は、ベッドの下、灰色の埃をかぶりつづけていた。 私はそれを偶然見つけ、そして秋人くんと連絡を取ってみようと思った。 彼なら、いまの私に、何かを言ってくれるような気がしたから。
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