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私は息を呑み、そして、秋人くんの許せないところを思い出した。
部屋がだらしないところ。洋服をたたまないところ。すぐゴミ溜めて虫が寄るところ。なにより、目が死んでるところ。
受け入れられない。直してくれればいいのに。
私のことが好きなら、私の行動も、言動も、受け入れてほしい。
そんなことを考えて、相容れないお互いのことが、やけに難しい人間同士だと思っていたのだ。
絶望に力がゆるんだすき、彼の指が逃げてしまった。
「秋人くん、もう帰るの?」
「そうだよ。昔付き合ってた女と夜更かししても、いいことないだろ」
固着できない彼の指先が、遠ざかる。
私は秋人くんに、あっけらかんとサヨナラを告げられた。
一人駅に残されたまま、ほんのすこし、立ち尽くした。白光りする駅前はあまりにまばゆく、慣れないパンプスの靴擦れが、からっぽの心に沁みて痛かった。
絶望の身体を電車に乗せて、私はおとなしく家に帰ることにした。
電車のドアが音を立てて閉じていくのを見て、たまらなく、虚しくなる。
はあ。たくさんのことを思い出した。
秋人くんが魅力的な人間に見えたあのころより、秋人くんはぜんぜんすてきじゃないけど、でも、あのころより、秋人くんのこと、よく分かる気がした。
秋人くんは、私から離れようとする。私が、いつまでたっても、変わらないから。
でも、私、いまさら変わるなんて出来ない。
ああ、孤独だ。死ぬかも。さみしくて、さみしくて、嫌だ。
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