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休日のしんとした晴れ間は、ついに、涙が出そうになる。
そのとき、携帯が鳴った。
秋人くんからの返事かと思えば、不倫相手だった本社の上司からの、別れないで欲しいという謝罪メールだった。
しめやかに涙が引っ込んだ瞳でそれを削除しながら、私はふたたび、長いため息をつく。
携帯が壊れるくらい、リロードを繰り返す。
秋人くんからの連絡は来ない。
寂しくて死にそう。
大学時代の女友達にラインを送ってみる。
今日、飲みにいかない?
今日、遊ばない?
既読、不倫女は無理、既読、無視、既読、ごめん、仕事があるから。既読。返信。ぽちぽち。わかった。急にごめんね。
私はベッドに腰を下ろして、木目の天井を見上げた。
足元では、ふるい靴の空き箱に詰まった、たばこの空箱たちが、死んだ顔をして眠っている。
学生時代、秋人くんの連絡を待って、明け方まで満たされない気持ちになったことを思い出した。
秋人くんは、いつもはっきりして、気持ちを代弁してくれる。
だから、私は秋人くんに依存していた。自分では、自分の気持ちを考えられないからだ。
だから、もやもやした気持ちが溜まって、溺れてしまう。
誰も捕まらない休日に、むなしさが胃液と一緒に込み上げる。
秋人くんなら、なんて言ってくれるかな。
この長くて薄暗い空間に、裂け目を作って、手を伸ばしてくれるんじゃないだろうか。
再び携帯を手に取り、性懲りもなくリロードを繰り返す。やはり、返事はない。
空を切る期待の矛先が、力なくしなだれた。
なにもかもに振られて、ため息をついたとき、手元で通知音が鳴った。私は目を見張る。
秋人くんから返事が来たのだ。今日は空いているという。
私は慌てて、指を滑らせた。
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