1人が本棚に入れています
本棚に追加
その日はなにごともなく解散した。
街灯が点在する帰り道、私は消化しきれなかった感情を身体のなかで転がした。
秋人くんは、昔と変わってなかった。けど、期待とは違っていた。
秋人くんなら、私について、何か言葉をかけてくれるだろうと、そして、それを聞いた私の身体のなかから、うずくまった毒が抜けるだろうと、期待していたのだ。
私は、思いつめた自分の中の秋人くんの記憶と、現実の秋人くんの違いに気がついた。
秋人くんはやさしくなんてない。言葉を選ばないし、私が傷ついても、凹んでも、関係ないのだ。
帰宅してお風呂から上がった私は、あつめたたばこの箱をひとつ、手に持って、においを嗅いでみた。
かすかに、秋人くんの右手の人差し指と中指のにおいがする。
けど、その事実は、過去の記憶にすぎない。
秋人くんは、たばこをやめていた。
足元に、細くてしつこい蔓が、重たい彩りをまとって、幾重にも絡んできた。
ベッド下のたばこの空箱のせいだ。そう思った。
私はあつめたたばこの箱を捨てることを決めた。
燃えるゴミの日、私はふたのないくつ箱ごと、秋人くんのたばこの空箱をゴミ袋に突っ込んだ。
カラカラと軽い音を立てて、秋人くんと過ごした思い出の時間の束がそこに落ちる。やっと、灰になる。よかった。
空になった身体は、宙に浮いてどこかに飛んで行ってしまいそうだった。
これで楽になる。
そう思っていたのに、どんな作用が働いたのか、私はたばこの空箱を捨ててしまっても、秋人くんにのことが頭から離れなかった。
電話口のクレームで受け止める、怒りや悲しみや混乱の感情は、単純なほど、胸に染み込んで消えていく。
あれからずっと頭の中でただよっている秋人くんのかけらが、わるい感情をついばんで、ゴミ箱にはこんでいく。
秋人くんのことを考えていると、どうしようもない自分の現実にからみつく毒針が、すこしだけまるくなる。
私は、その理由を知りたかった。
最初のコメントを投稿しよう!