朝顔の夜

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その日はなにごともなく解散した。 街灯が点在する帰り道、私は消化しきれなかった感情を身体のなかで転がした。 秋人くんは、昔と変わってなかった。けど、期待とは違っていた。 秋人くんなら、私について、何か言葉をかけてくれるだろうと、そして、それを聞いた私の身体のなかから、うずくまった毒が抜けるだろうと、期待していたのだ。 私は、思いつめた自分の中の秋人くんの記憶と、現実の秋人くんの違いに気がついた。 秋人くんはやさしくなんてない。言葉を選ばないし、私が傷ついても、凹んでも、関係ないのだ。 帰宅してお風呂から上がった私は、あつめたたばこの箱をひとつ、手に持って、においを嗅いでみた。 かすかに、秋人くんの右手の人差し指と中指のにおいがする。 けど、その事実は、過去の記憶にすぎない。 秋人くんは、たばこをやめていた。 足元に、細くてしつこい蔓が、重たい彩りをまとって、幾重にも絡んできた。 ベッド下のたばこの空箱のせいだ。そう思った。 私はあつめたたばこの箱を捨てることを決めた。 燃えるゴミの日、私はふたのないくつ箱ごと、秋人くんのたばこの空箱をゴミ袋に突っ込んだ。 カラカラと軽い音を立てて、秋人くんと過ごした思い出の時間の束がそこに落ちる。やっと、灰になる。よかった。 空になった身体は、宙に浮いてどこかに飛んで行ってしまいそうだった。 これで楽になる。 そう思っていたのに、どんな作用が働いたのか、私はたばこの空箱を捨ててしまっても、秋人くんにのことが頭から離れなかった。 電話口のクレームで受け止める、怒りや悲しみや混乱の感情は、単純なほど、胸に染み込んで消えていく。 あれからずっと頭の中でただよっている秋人くんのかけらが、わるい感情をついばんで、ゴミ箱にはこんでいく。 秋人くんのことを考えていると、どうしようもない自分の現実にからみつく毒針が、すこしだけまるくなる。 私は、その理由を知りたかった。
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