お風呂は二人で

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お風呂は二人で

 何故こうなった!?  結局、俺達は今二人で桐生の家の脱衣所にいる。別に、狭くない。桐生の家は、脱衣所も広いのだ。別に、理由に納得していないわけではない。二人ともびしょ濡れだったのだから、どちらかを待つ間に風邪を引いても困るだろう。  ただ、好いてるかもしれない者同士で一緒に風呂に入るのはどうなのだろうか? 「…相沢、こっち向いてくれねぇ?」 「ん、あぁ」 「いや、だから、こっちを向けって」 「…向いているじゃないか」 「え、お前それまじで言ってる?」  こんな会話をしてしまうくらいには、俺は、桐生を意識してしまっている。  もちろん、男同士で何をとは、俺もわかっている。しかし、俺の理性に反して、全く体が言うことを聞かないのだ。服を着ていない桐生がすぐそこにいる。ただ、それだけのことに柄にもなく恥ずかしくなってしまった。  鍛えられた体は、スポーツが得意な桐生らしく綺麗に筋肉が付いていて、男の俺でも羨ましい。割れた腹筋に、丁度良い厚さの胸板。背筋のラインは、妙に色気があり見惚れてしまう。鎖骨が浮かび上がった逞しい肩や首は、勉強しかやってこなかった俺より太い。いつも制服に隠れていた部分が見えると言うことが、背徳的で、落ち着かない。  しかし、このままでは本当に風邪を引いてしまうのも事実だ。よって、桐生には悪いが先に風呂に入って欲しいと頼んだ。俺は、桐生が湯船に浸かり、体が少しでも隠れている間に入ろうという魂胆だ。 「ふぅー…やっぱ体冷えてたなぁ。超気持ちいい」  体を洗っている俺の隣で、湯船に浸かった桐生が思わず、という風に呟く。あれから、俺は桐生の後から入り、無事体を洗っている。正直まだまだ目のやり場には困るが、風呂の湯気がカーテンとなり、俺を落ち着かせている。そう、だから、あんな発言をしてしまったのだ。 「桐生。俺、髪と体洗い終わったからちょっとつめてくれないか」 「………」 「………」  …しまった。なぜ俺はこいつと入ろうとしているんだ。いくら桐生の家の風呂が広くて、浸かったら気持ち良さそうでも、男同士で入るには狭いに決まってる。普通なら、桐生が湯船から出たあと入るべきなのに。しかも、意識している相手となんて。  言い訳ではないが、これには深い理由がある。俺は兄弟が多かったため、風呂も兄弟で入ることが多かった。その時、こんな風によく、皆で湯船に浸かっていた。白状すると、ほんの少しだけそれが懐かしくなっていたのかもしれない。しかし、相手は桐生。さすがに相手が悪いな。ここはやはり、撤回するべきだ。 「いや、悪いな。ちょっと実家の感覚で…「いいぞ」  ……ん? 「ほら、相沢。…おいで?」 「……は?!」 ────ガタッ‼ 「大丈夫か!」  あまりの驚きに転んで、頭を打ってしまった。  こいつが……っお、お、おいでなんて笑うから、不覚にも、可愛いとかかっこいいとか思ってときめいてしまったじゃないか!っく……恥ずかしい。  ちなみに、俺を心配した桐生は、風呂から飛び出てきていた。そうなれば必然的に、倒れこんだままの俺の視界一杯に、暴力的なほどの色気を纏った肌色の桐生が映るわけで。水も滴る良い男ってこの事か。  いや…やばい。これはやばい。  鼓動が速まる。 「だ、だ、大丈夫だから!」 ───ガンッ! 「っ!」 「何してるんだ!?下がったら頭を打つだろうが!!ほら、動くなって」  桐生の色気に耐えられず後退りし、俺は頭を打つという墓穴を掘った。さらに、桐生は距離を詰めてきて、寝転んだままの俺に覆い被さるような体制になってしまう。桐生の低い声が風呂場に響き、俺の耳から入って脳を揺さぶる。動くなと言われれば、まるで囚われてしまったように、体は自由を失った。視界はもはや桐生一杯で、顔を逸らすこともできない。  桐生はただ心配しているだけなのに。なんで、邪なこと考えているんだ…っ!
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