20人が本棚に入れています
本棚に追加
答えと雨音
結局、あの後逆上せてしまった俺は、桐生に手取り足取り湯船に入れられ、更に、桐生に服まで着せられてしまった。何から何まで桐生にされるがままで、穴があったら入りたかった。
湯船で桐生の足の間に座らされ、後ろから抱えられるようにされたときは、もう、本当に、桐生の肌すべすべだだとか、筋肉がやっぱりすごいなとか、そんなことを考えてしまって、申し訳なくて死にたくなった。
そんな変態的で申し訳ない俺は今、リビングのソファーで上半身裸の状態で横にされていた。ちなみに、このソファーはすごくフワフワで、恐らく値が張るのは田舎者の俺でもわかる。けれど、今は起きれる状態でもないため、その事を頭から追い出した。…桐生のご両親に会うときがあったら、全力で謝り倒そう。
いや、もちろんそんな、お付き合いさせていただいていますとかいう挨拶で会うためではない、断じて。
……こんなことを考えている時点で、俺は末期なのかもしれない。
そこへ、濡れたタオルを持った桐生がやって来た。
「相沢、気分はどうだ?……んー、まだ顔赤ぇし寝てた方が良いかもな」
「んん…」
「(ボソッ)なんかうるっとしてる目に、赤い肌とか……眼服かよ」
「どうした?」
「…っ…いや、なんでもねぇ」
桐生のおかしな様子に首を傾げるも、桐生がなんでもないと言うのなら、そうなのだろうと納得し、それ以上は追及しなかった。
すると、桐生は俺の額に濡れたタオルを置き、俺の頭近くの床に胡座をかいた。そして、不意に俺の後頭部を撫でる。
「な、なんだ?」
「なぁ、痛いか」
ああ、さっき風呂場で打った所かと気づいた。
「いや、大丈夫だ」
本当は少し痛いけど、桐生の裸が直視できなくて後ろに下がったら頭を打ちましたとか、そんな恥ずかしい理由は、絶対知られたくない。しかし、そんな願いを打ち砕くように理由を聞いてくる桐生。
「なぁ、あの時なんで俺から逃げたんだ。えと、ほら、おいでって言った時とか、頭打つ前とか、お前後ろに下がったろ?」
「うっ…」
ばれた。けど、言いたくない。あんな恥ずかしい理由で逃げたなんて、もうそれは俺が桐生を好きだって認める事と同じで、それだけは避けたいんだ。
頑なに理由を話そうとしない俺に何を思ったのか、桐生は目を背ける俺を覗き込んできた。俺は、仰向けで横たわっていて、更に濡れたタオルも額に置いているから顔は動かせない。それを分かっているのかいないのか、たちの悪い桐生はじっと俺の目を見つめる。どんなに目を背けても、ずっとあの綺麗な目で追いかけてくる。
そして、結局折れるのはいつも俺で。(正直、目が疲れたのもある)
「……た、んだよ」
「ん?」
声を小さくするという最後の抵抗も虚しく、俺は全てを白状させられた。
「っっだから!お前がおいでって言ってきた時、本当に本当に不覚だが!!少しだけ可愛いとか、かっこいいとか思ってしまったんだ!!それに…お、お前の裸がっ、そ、その…視界一杯に広がってるのが…えと、いや、耐えきれなくて……っ!」
恥ずかしすぎる。なんだこれ。拷問か。
全てを白状しきった俺は、もうタオルが落ちるとかそんな事関係無しに、桐生の目から逃れるように体ごと桐生に背を向けた。
もう、どうにでもなれ…!
そんな俺に、桐生は呟くように名前を呼んだ。
「相沢…お前…………っ可愛いすぎるって!」
「は…?」
思っていた言葉と180度違う言葉を掛けられ、思わず体を起こし振り返ろうとすると、ぎゅっと抱き締められた。
「ごめん。もう、俺相沢が好きすぎて、我慢できねぇ。あと、今嬉しすぎて顔赤ぇから見ないで。超かっこ悪ぃから」
何だそれ、見たい。
そう思った後に、やっと桐生から言われた言葉がじわじわと頭に染み込んでくる。さっきまで聞こえていた筈の雨音が消えた。俺の五感全てが桐生を意識する。
桐生が俺を好き。
桐生が俺を抱き締めている。
桐生が俺のせいで顔を赤くしている。
すると、桐生がおずおずと顔を俺に合わせてきた。本当に、桐生の顔は真っ赤で、耳まで染まっていた。
「なぁ、相沢……いや、瞬。お前、俺のこと…………好き?」
降参だ。もう、俺は桐生を好きな気持ちを偽れそうにない。でも、少しだけ桐生の思い通りになるのが癪なのは許しいほしい。
だから俺は、ほんの少しだけ…桐生の背に手を回し、服を、ちょんと掴んだ。
外ではもう雨が止んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!