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二度目の雨の日
結局、桐生に流されて今日も一緒に帰ってしまった。もちろん、桐生が俺のことを好きだとか、そんなことは妄想だと分かってる。それでも、あんなことを言われた後で平然としているのは、正直大変だった。
狭い傘の中で、あいつが至近距離で笑いかけてくるだけで、鼓動が速まった。そうなればもう、悪循環の繰り返しで。桐生が話しかけて来る度に、桐生の色々な所を意識した。
あれ、俺の方が背が小さいのか。とか、傘の中で声を潜める桐生の声が、妙に響くな。とか、笑ったときは、目尻に少し皺が寄るんだな。とか。
普段遠くから見るだけでは分からない、傘が生み出す独特の距離から見る桐生は、いつもと違って見えた。…傘の魔法だろうか、なんて。
「相沢?おーい、あーいーざーわーっ」
「…、あ、ああ。悪い」
いけない、思わずまじまじと見てしまった。不自然では、なかっただろうか?
「いや、ボーッと俺の方見てるから、俺に惚れちまったのかと思ったぜ」
冗談冗談と笑う桐生に、ドクンッと心臓が大きな音を立てた。何か、何か軽口を返さなければ。…不自然じゃないか。
しかし、どんなに頭を回転させても、何も出てこない。むしろ、顔に熱が集まってくる。
そ、そんなのって…俺が桐生を好きみたいじゃないか!
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