二度目の雨の日

1/1
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

二度目の雨の日

 結局、桐生に流されて今日も一緒に帰ってしまった。もちろん、桐生が俺のことを好きだとか、そんなことは妄想だと分かってる。それでも、あんなことを言われた後で平然としているのは、正直大変だった。  狭い傘の中で、あいつが至近距離で笑いかけてくるだけで、鼓動が速まった。そうなればもう、悪循環の繰り返しで。桐生が話しかけて来る度に、桐生の色々な所を意識した。  あれ、俺の方が背が小さいのか。とか、傘の中で声を潜める桐生の声が、妙に響くな。とか、笑ったときは、目尻に少し皺が寄るんだな。とか。  普段遠くから見るだけでは分からない、傘が生み出す独特の距離から見る桐生は、いつもと違って見えた。…傘の魔法だろうか、なんて。 「相沢?おーい、あーいーざーわーっ」 「…、あ、ああ。悪い」  いけない、思わずまじまじと見てしまった。不自然では、なかっただろうか? 「いや、ボーッと俺の方見てるから、俺に惚れちまったのかと思ったぜ」  冗談冗談と笑う桐生に、ドクンッと心臓が大きな音を立てた。何か、何か軽口を返さなければ。…不自然じゃないか。  しかし、どんなに頭を回転させても、何も出てこない。むしろ、顔に熱が集まってくる。  そ、そんなのって…俺が桐生を好きみたいじゃないか!
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!