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自覚
促して、俺は歩き出したのだか、なぜか雨に降られずぶ濡れになってしまった。思わず隣を見ると、桐生はさっきの場所で立ち止まっている。傘は桐生が持っているため、あいつが動かないと、俺は帰ることもできないわけだ。いや、帰ることはできるのだが、ずぶ濡れになるのは確定だ。
仕方なく、桐生がいるところまで戻り、傘に入る。桐生はまだ俯いたままだ。
「おい、おい桐生。行くぞ。お前がいなきゃ、俺は帰れないだろ」
─ガシッ
「は?」
突然、肩を掴まれる。両手で俺の肩を掴むもんだから、傘は当然落ちて、俺達は揃ってずぶ濡れ。思わず、桐生に抗議した。
「うわっ!!お前、馬鹿か!傘落ちてるし、濡れるだろう!!ほら!手をはな…っ」
顔を上げた桐生は、何とも言えない表情をしていた。眉間に皺が寄っているから、怒っているのだろうか。でも、綺麗な色素の薄い瞳は揺れていて、困っているようにも見える。形の良い唇は、何かが喉に詰まっているかのように、開閉を繰り返していて、迷っているようにも見える。
そう、まるで捨てられた犬みたいだ。いや、でもこいつはライオンみたいだから、捨てられた子猫だろうか。
ともかく俺は、思わず見てはいけないものを見てしまったかのように顔を反らした。
「……手を離せ。傘を拾う。…………このままじゃ、お互い風邪をひくだろ」
言えた言葉はそれだけ。桐生が纏う雰囲気に流されないようにするのが、俺の精一杯。
しかし、それを砕くように、肩を掴む手の力が増す。痛くて、思わず桐生を睨めば迷子のような瞳とかち合う。結局、耐えきれなくなったのは俺で、
「…はぁ、どうしたんだ。黙ってないで、何か言え。解決しないだろう」
なんて、声をかけてしまった。桐生を伺うように見れば、やっと表情が動きだし、眉を下げ、情けない顔をしだす。けれど、ゆっくり口が動き、やっと言葉を発した。
「………俺、んでか分かんねぇけど。お前が必死に、勘違いだって言うの聞いて、すげぇ、ここらへんが重くなったんだ」
そういって、自らの胸の辺りをぎゅっと握る。それはそれは苦しそうに。
「俺さ、ホモじゃねぇよ。俺だって、ノーマルだ。…けど、けどよ!お前が、俺のことが好きだってこと否定するたびに、イライラすんだよ。しかも、お前に友達でもねぇ、なんて言われて、俺は…なんか、苦しかった。これって……お前のこと…………好きってことなのか?」
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