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桐生宅
「お邪魔します…」
初めて訪れた桐生の家は、一言で言うとでかい。見上げることが辛い高級マンションの一室で、先程聞いた話では4LDKらしい。そこに、父親と母親と桐生の三人で暮らしているんだと。
正直、兄弟が多く、そんなに裕福とも言えない家で育った俺にはあまりに正反対な暮らしで、少し緊張している。
「玄関でわりぃけど、タオル持ってくるから待っててくれ」
「あ、ああ…悪いな」
そう言って、桐生はびしょびしょのまま廊下の先の通路に消えていった。
1人になったことで、じわじわと先程の光景を思い出してしまった。好きってことなのかと俺に尋ねた桐生の顔が、今でも鮮明に思い出せてしまい思わず顔に熱がこもる。ただそれだけなのに、胸が締め付けられた。そして、ここが桐生の家だと認識してしまうと、さっきまで気にならなかった桐生の家の匂いや、物を感じるだけでそわそわしてしまう。
そうやって落ち着かない気持ちでソワソワしていると、桐生が通路の奥から顔を出した。
「悪い、遅くなった。寒くないか?」
その一言で、嬉しくなる。
「ん?顔が赤いな…っもしかして、熱が出たんじゃないのか!」
おろおろと、俺の額に重ねられる大きな手にどぎまぎする。
「っ、大丈夫だ」
「いやいや、でも熱いし、それにあか、い…し…」
目が合えば、知らなかった筈の「好き」がこんなにも溢れる。
思わず思いっきり顔を逸らしてしまった。溢れた「好き」を、勘づかれてしまいそうで。
「だ、大丈夫だ。問題ない」
「お、おう。…ほら、タオル。早く拭かねぇと、まじで風邪引くから……っっくしゅんっ!」
─人を心配して、自分のことは後回し。友達を大切にする男。
「ほら、タオル貸せ。風邪引くのはお前もだろう」
タオルを奪い、少し高い位置にある金髪をわしゃわしゃと拭いた。大人しくされるがままになっている桐生を見ると、自分が猛獣使いにでもなった気分だ。
─仲間には牙を剥かない。優しい男。
「っ、相沢…」
手を捕まれる。熱っぽい瞳が俺を見つめた。そして、徐に俺からタオルを取り、俺の頭を拭き始めた。骨張った手が俺の髪を拭き、熱っぽい瞳で見つめ、獲物を狙うような顔をする。
─どうやら見た目の通り、少しは野生を秘めいている男、らしい。
「よし、拭けた。……さっきの話の続きはまだいいから。先に風呂、入ろうぜ」
「…あぁ」
「お前、先、入れよ」
「いや、お前の方が濡れているだろう。それに、ここはお前の家だ」
「じゃあ、家主命令だ」
「いや、お前が…」
「いやいや…」
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