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午前三時の真相
家の掛け時計が十月三日の午前零時を示したそのとき、幸子はリビングのソファに座り、公一の帰りを心配そうに待っていた。
(あの人、最近どうしちゃったのかしら、心配だわ……)
彼女ははふと部屋にある壁掛けカレンダーを見やった。
(せっかく今日の結婚記念日のために三ヶ月も前からダイエットに励んでいたのに)
幸子はひとつため息をついた。
(世間では熟年離婚が流行ってるみたいだけど、私はそんなの嫌。だって三十年前にはあんなに愛し合っていた夫婦なんですもの。私達はきっとまたやり直せる。だから私は三十回目のふたりの記念日をその最初の日にするって決めたの)
そしてこれまでの秘密の計画を思い返し始めた。
(私は結婚記念日までにダイエットをして、少しでもきれいになった私を見てもらいたいと思った。だからわざわざあの人と寝室を別にして、あの人が寝静まった深夜三時にこっそり運動を始めたのよ)
彼女は少女のようなイタズラな笑顔を浮かべた。
(どうせやるなら本格的にやりたかった。黒いサウナスーツを着込んで、ろうそくを部屋にたくさん灯して、室内の温度を上げて発汗作用を高めてね。いきなり激しく身体を動かしたらどこかを痛めちゃうかもしれないから、太極拳のDVDを見ながら運動したのも大正解だったわね)
立ち上がると部屋にあった姿見に自身を映し、以前より確実に細くなったウエストを軽くさすった。
(今夜は高級レストランを予約してある。痩せたから新婚当時の服も入るようになったし、それを着て出かけるの。もう何年も結婚記念日なんて何もしていないから、きっとあの人ビックリするでしょうね、うふふ……)
幸子は愛を取り戻そうとしている旦那を、いつまでも待ち続けるのだった。
完
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