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翌日の昼食後、妻は買い物に出かけた。
私はこの機会を待っていた。この隙に妻が寝室として使用している和室を調べようと思っていたのだ。きっと何か証拠が出るはずだ。それが何の証拠かは、私の脳が考えることを拒否していた。
私は障子が開け放たれている和室に足を踏み入れた。そこは、妻が寝室として使用する前とまったく変わっていない気がした。
襖を開けると、上段には妻が使用している布団が収納されていた。そして下段には普段使用しない家電や洋服が詰め込まれている。その中に、木の箱に入った様々な色の細長いろうそくを見つけた。それらは長さがまちまちで、明らかに使用されている痕跡があった。
テレビを置いておく台の中には、何枚ものDVDが収納されていた。しかしそれらをくまなく調べてみても、あのサイトで販売されている、呪いの舞いが収録されたものはなかった。やはり決定的な証拠は残さないようにしているのだろう。それは私が与り知らないところに秘蔵してあるのだ。
そのとき、ふと見やった部屋の壁掛けカレンダーに、ひとつだけ赤い印が付けられているのが目に入った。気になった私は、老眼ですっかり衰えた目をカレンダーにぐっと近づけた。
印が付けられていたのは、十月三日の日曜日だった。その日に何か心当たりはないかと思いを巡らせた私は、ある可能性に気付きハッとした。
まさかこれは妻の呪いが成就する日なのではないか。つまり私が死んでしまう日なのではないだろうか。むしろそれ以外には考えられない。この日にわざわざ印をつけるような予定が、ほかには何も思いつかなかったのだ。
その日は今日から五日後だった。私は全身から血の気が引いていくのを感じていた。
その日の夜、私は体調を崩した。身体がだるく、酷く寒気がする。病床に伏せる私は、ガタガタと身体を震わせていた。
「寒いの? でも困ったわね。部屋を暖めようにも、今年の春先に暖房器具が壊れてからそのまま放ったらかしにしてあるから……。布団をもう一枚持ってくるからちょっと待っててね」
意外にも病に苦しむ私を、妻はかいがいしく看護してくれた。しかしその一方では、私を呪い殺したいほど恨んでいるのだと考えると、人の業の恐ろしさというものをより強く痛感したのだった。
そしてその日も例外なく、午前三時がやって来た。今日も階下では、妻による呪いの儀式が行われているのかと思うと、その日から私は、ほとんど一睡もできぬ不安な夜を過ごすこととなったのだった。
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