午前三時の秘密

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 妻の呪いが成就する前日である十月二日になった。妻の偽りの優しさにより、幸か不幸か私の風邪は二~三日で完治していた。  このときの私は慢性的な寝不足により、常に起きているのか眠っているのか定かではない朦朧とした状態に陥っていた。 「ねえ、大丈夫? 目の下の隈酷いわよ。病院に行ったほうがいいんじゃない?」  廃人のようにベッドに横たわる私に、傍らに立つ妻が心配そうに言った。私は力なく妻のほうを見やった。そういえば妻は以前より痩せたような気がする。  そのとき私は、例のサイトで見たあの情報を思い出した。呪いを成就させるには、術者の生体エネルギーを悪魔に差し出す必要があるため、その結果として寿命が縮んだり、身体が痩せ細ると書いてあったのだ。  私は布団を目深にかぶり、咆哮をあげて、迫りくる自身の死の恐怖に怯えた。妻は手が付けられないと判断したのか、程なくしてそっと部屋を出て行ったのだった。  時間は容赦なく過ぎ去っていく。  午後十一時半を過ぎた頃、私は意を決して、生を勝ち取るべく行動を起こすことにした。  私はスマホだけを手に、パジャマのまま夜の街へ駆け出した。背後からは私を引きとめようとする妻の声が聞こえたが、そんなものは当然無視した。  何か策があるわけではなかった。ただあのまま家にいては、妻自身の手によって殺されるのは間違いなかった。とにかくできるだけ妻のいる場所から離れようという一心だった。
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