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「分かった。待ってる。」
そう答えると、マコちゃんは立ち上がり、食器をキッチンに下げて、そのまま洗い物を始める。足元に寄ってきたチィを抱き上げて、撫でながらソファーに横になる。今度こそ寝落ちてしまえそうだった。猫は安全だと思った縄張りの中なら、いくらでも無防備になれるんだ。
しばらくウトウトしていると洗い物の音が終わる。マコちゃんが戻ってきて、テレビとソファーの間に置かれたローテーブルに封筒を置く。
「無駄遣いしちゃダメよ。」
いつもの決まり文句を言うマコちゃんの顔を見上げる。今日は何処にも行くつもりなんてない。マコちゃんの仕事が終わるまで、のんびり待っていればいい。
「待ってるってば。」
「前にもそう言って出掛けたでしょ。」
頭の良いマコちゃんは、記憶力も良い。たぶん今まで寝てきた相手の顔と名前を全員分覚えているんじゃないかってくらい。頭が悪くて言い返せないから、エヘヘと笑って誤魔化すしかなかった。
でもマコちゃんは細い腰に両手を宛てて、至って真面目風に、
「女のコとデートするなら、気前よくならなきゃ。ましてや煙草を貰うなんて。」
母親というものが居たら、多分こんな感じなのかもな。なんて思ったりする。
でも口うるさいだとか、説教されてるみたいだとか、そんな風に煩わしく思ったりしないのは、マコちゃんが男の人だからなんだろうか。
「今朝はちょうど切らしてたんだよ!」
何でも分かってしまうらしいマコちゃんに苦しまぎれに言い返すと、マコちゃんはやれやれと肩を竦めてから、じゃあね、と言って部屋へ行ってしまった。
マコちゃんは煙草を吸わないから、この家には灰皿が無い。チィの為にも良くないから、家の中では吸わないようにしている。どうしても吸いたくなったら、外に出なければならない。
だからチィをソファーに置いて、マコちゃんの置いて行った封筒だけ持って外に出た。
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