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でも、何を話したのか、どうやってここに来たのか、そして相手の名前すらろくに思い出せない。そんな女の人が隣で寝返りを打ち、ゆっくりと目を開けた。長い髪がくちゃくちゃだ。
「…起きたの?」
少し掠れた、低い声で聞かれて。
「起こしちゃった?ゴメンネ。」
そう言って頭を撫でた。髪を梳くと、メイクの剥げた顔が現れる。いつもこの瞬間はドキドキする。あんまりタイプじゃなかった。
「ううん、いいよ。」
女の人は少し恥ずかしそうに言って、肩を竦める。
「煙草一本貰っちゃった。」
「いいよ、それくらい。」
何でも許してくれるみたいで安心した。優しい人で良かった。
テーブルの上に置かれたパールピンクの灰皿には既に吸い殻が幾つかあって、昨日も吸ったのかな、なんて思ったりした。何せ記憶がおぼろげで、まともに覚えている事の方が少なそうだった。
「じゃあ、そろそろ行くね。」
長居は無用だ。そう言ってベッドを出て、パンツとジーンズを履く。
「えっ?もう?」
女の人も慌てた様子でベッドから起き上がろうとする。うつ伏せだが、おっぱいが丸見えだ。
「いいよいいよ、お見送りなんて。寝ときな。」
通しっぱなしだったベルトを締め、Tシャツを下ろしながら、女の人を押さえて、もう一度ベッドに寝かせる。
でも食い下がろうとしてくる。
「そ、そうじゃなくて…その、朝ごはんくらい」
「いーって!朝は食欲無いんだ。」
テキトーに誤魔化しながら、左手で尻ポケットを確認する。左右それぞれにスマホと財布。左ポケットには鍵の感触。それさえあれば大丈夫だ。
「でも…」
聞き分けの悪い女の人。あんまり好きじゃない。
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