マコちゃんとチィとボク

32/35
前へ
/35ページ
次へ
「あ、そうだ。」 リビングに行こうとドアを開けた時、マコちゃんが呼び止めてくる。振り向くと、少し体を起こしたマコちゃんの隣の壁に貼られた、ブーメランパンツ姿のイケメンと目が合ったような気がした。 「カレンダーにも書いておいたけど、明日は私、本社の方に行かないといけないのよ。」 普段は家に居る事が多いけど、月に何度かは、こうして仕事で出掛けていく。マコちゃんの仕事のことも、よく知らない。仕事中の部屋に聞き耳を立ててみても分からなかったように、本棚に詰められた背表紙を見ても、頑張って勉強して身に付けた難しい知識を要求されている事が辛うじて分かる程度だ。 「そうなんだ。」 スーツを着てネクタイを締めたマコちゃんは、滅多に見られない。早い時間から出て行って、遅い時間まで帰って来ないのだ。そんな朝は、帰ってくるとリビングのいつもの場所にチィのごはんが少し多めに用意されていて、テーブルの上にはマコちゃんの綺麗な字で書かれたメモがあって、冷蔵庫の中にはラップを掛けられた一人分の朝食が置いてある。 冷たいままのそれを食べながら、今何かとんでもない事をやらかしても、マコちゃんは来てくれないんだなぁと思う。しーんと静まり返ったリビングで、テレビを点けてみても内容は頭に入って来ず、チカチカと目まぐるしく動く光の塊を目に押し付けられて、意味の無い言葉の羅列を耳に詰め込まれているみたいに感じるだけだ。 ソファーで寝て、昼過ぎになると胸の上に乗っかったチィに起こされる。キラキラ光ってシャカシャカ音のする猫じゃらしや、ゲームセンターで手に入れたレーザーポインターで遊んで、ブラッシングをして可愛がっていると連絡が来るから、一度シャワーを浴びて着替えたら、誘ってきた女の人とデートに行く。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加