マコちゃんとチィとボク

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そこに近付くに連れ、いい匂いがしてきた。女の人の匂いじゃなく、ピーチの煙草の匂いでもなく、美味しそうな朝ご飯の匂い。温かいお味噌汁、焼き魚、もうすぐ白いご飯が炊ける炊飯器から立ちのぼる湯気の匂い。 キソウホンノウってやつみたいなのに引き寄せられて、誘われるように鍵を開けて入ると、それが一層はっきりとする。 「ただいまぁ。」 もうすっかり習慣になった声掛けに、口が勝手に動いた。 すると、何やら話し掛ける声。それからドアが開き、リンリンという鈴の音と、軽やかな四つ足の足音がこっちに向かって来るのが聴こえてくる。 顔を出したのは、銀色の毛玉。もといクラシックタビーのアメリカンショートヘア。 「チィ、ただいま。」 最初は本当に生まれたてみたいな仔猫だったから、チビって呼んでたんだけど。拾った時より、あっという間に大きくなって、チビとは呼べなくなって、チィになった。おまけにあの時とは見違えるほど綺麗になったし、可愛さは日に日に増していっている。 靴を脱いで上がり込む挙動に、ふんふんと鼻を鳴らしてまとわり付いて、大きな青い瞳で見上げてくる。なめらかな毛並みと、ちょっとだけぽっちゃりした抱き心地はサイコー。 「何もお土産持ってないや、ごめんな。」 手を広げて、裏返して、何も持ってない事を伝える。洗面所に寄ってからリビングに向かう道中にも、チィは足元にすり付いてくるので、蹴ったり踏んだりしないように気を付けている。 リビングに入ると、男の人の中でも更に低めの、落ち着いた声が出迎えてくれる。 「お帰りなさい。朝ごはん作ってるわよ。」
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