マコちゃんとチィとボク

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実は、マコちゃんについて知っていることは多くない。名前はクリハラ マコトっていうらしい。本人の代わりに荷物を受け取る事があるから覚えてしまった。マコちゃんは頭が良くて、色んなことを知っていて、在宅でパソコンを使う仕事をしていて、優しくて、猫が好きで、筋トレが好きで、あんな見た目なのにエッチの時は受け身で、耳を舐められるのが弱くて、今は恋人が居ない。 向こうが聞いて来ないから、こっちも聞けずにいるところもある。聞いたら教えてくれそうなことでも、踏み込むのを躊躇してしまって、何も聞けないまま。マコちゃんについて知らない事を知ろうとするのは、いけない気がして。知らなくてもやって行けてるから、知らずに済む事はあるのかも。そして、それはお互い様かも知れないって。 マコちゃんが毎朝どういう思いで迎えてくれているのか、どうしてあの時チィを引き取ってくれたのか、もともと他の猫より腎臓の弱いチィはこれからも元気でやっていけるのか、今朝の女の人は誰だったのか、これまで同じ事をしてきた女の人とは何か違ったのだろうか。これからもこんな生活が続いていくのか。 また、考えがまとまらなくなってくる。そうしている内に、涙が出てきた。どういう感情で、どうして泣いているのか、自分でも理解ができない。 すぐに嗚咽が始まって、呼吸の仕方が分からなくなって、上から流れてくるシャワーに溺れそになる。立っているのも辛くなって、壁に寄り掛かって、そのままへたり込んでしまう。その拍子にシャンプー台にぶつかって、倒してしまった。頭の上から、石鹸やら安全カミソリが落ちてくる。 ひぐっ、ひぐっとしゃっくりが出て、鼻や喉が痛くなってきて、それでもボタボタと涙を流す事しかできない。涙でぼやけた視界をシャワーが伝っていく。
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