水溜まりが広がりそうな空模様にて・②

2/2
前へ
/30ページ
次へ
                  ***  どよどよとした曇り空の中で、夏服の生徒たちのおはようの声が響き渡る中、肩にかかるかかからないかの黒いミディアムへア―の少女、宮原みもりは自分の下駄箱を目の前に、戸惑っていた。  手に持つのは、一つのかわいらしい便箋。それも、ハートのシールで封をされた状態で。 「え?! ちょっと、まって。これって?! なんで?」  あまりにも、突拍子もない状況によりみもりはパニックになる。  それもそのはず、なんてことはない。みもりが、下駄箱から上履きを取る際、落ちてきたのだ。手に取った瞬間、ハートのシールでどういうものか理解する。いや、間違いでしょ、違うでしょ、あはは~、ちゃんとした人に返さなきゃ―と、表にひるがえした瞬間。 宛名は、「宮原みもりさんへ」と書かれていた。 「え、こういうのってあるんだ……。って、私なの?! なんで私?! だってここ……! ああ、いやいやいや、恋なんて千差万別。たまたま、その子が好きになった相手が私みたいな女の子だっただけだから……あはは、深呼吸しよう深呼吸」  と、一人、スーハ―スーハ―するみもり。  いつもより、口数の多いのは、あまりの出来事に脳の処理が追い付かず、オーバーヒートになりそうなところを、言葉にしているだけである。  ちなみに、こういう手紙は、初めてもらう。そして、多分、まず間違いなく学校から考えて、同性からなのも初めて。  いや、小学生の時に授業中にノートの切れ端で友達同士で他愛ない会話の簡単な手紙を回したり、もらったりしたこともあったが、ここまで本格的なものは経験がない。 「と、とりあえず、落ち着こう……。誰からだろう……」  なぜか、受け取った側のみもりが緊張して震える手。しかし、便箋を見ても、差出人の名前がない。多分、中身に書かれているだろうと、封を開けようとする……。 「みもりちゃん! おはよう~」 「ひっ?!」  とびっくりして、慌てて鞄の中に隠す。  そこには、榛名がやってきたのだった。 「あ、ハルちゃん。お、おはよう」 「どうしたの? なんか、びっくりしちゃって」 「え? あ、いや、何でもない! なんでもないよ~あはは~」 「ん? そう? 悩みとか? 何かあったら言ってね?」 「大丈夫大丈夫! 悩みとか、ないない~」  あまりの状況に言葉を繰り返してしまう。  別に、榛名に話してもいいかもしれないが、まだみもり自身の心の整理がついていない。それも、心臓もなぜかドキドキしてくる。  誰からだろうと気になりつつも、後回しにしたい気持ち。二律背反。アンビバレンツな気持ちというやつだ。 「あ、ほら、教室が待ってるよ!」と、恋文をもらったかもしれないという状況から逃げるように、榛名の手を引っ張ってしまうみもりだった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加