水溜まりが広がりそうな空模様にて・③

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               ***  放課後。部活の準備や帰り支度で周りが活動している中、みもりはイスに座りつつ、じっと視線を落としている。その先は、朝もらった手紙。まだ、封を開けていない。いっそのこと、えいやっ! と開けてしまってもいいのだが、彼女自身、なんとなく勇気が出ない。そもそもすぐ読むべきだったのだろう。けれども、今の今までそのままにしていた。  ……別に、いじわるとか、悪いことではないんだから。というか、意識しすぎだろう私、と彼女は自分自身に言い聞かせる。なんか、こんなにドギマギするのはひさしぶりだった。  まあ、何はともあれ、目の前にある手紙の封を開けなくては先に進まない。みもり自体、開けないでそのまま無視をするという選択肢もあるが、それは彼女のポリシーに反していた。  もし、昼休みのお話だったらどうしようとおもいつつ、かわいらしい便箋を手に取る。恐る恐る、ハートマークのシールを綺麗にはがす。破ったりなんてできない。  放課後の喧騒が、嘘のように耳に入らなかった。それほどこの手紙に集中してしまっていたのだ。中身を取り出す。それは、一枚の折りたたまれた手紙。意を決してゆっくりと開こうとする。   「…あら、かわいらしい手紙……。誰からかしら……? 今どき……ラブレター……? とても、味わいがあるわね……」 「あひっ?!」  と驚き、即座に封筒の中にしまうみもり。それにしても、今日のみもりは何ともビビりすぎである。  言葉をかけたのは、ウェーブのかかった黒髪のボブが特徴の、眼鏡をかけたダウナー系少女である。名前は、湊橋江梨華(みなとばしえりか)。通称りかちー。同じクラスのとあるきっかけで仲良くなった友人である。 「びっくりしたぁ。りかちーか。あ、いや、ラブレター……かどうかはわからないんだけど……。もしそうだったら、どうしようかなと……どう、相手を納得させられるかなと」 「……ああ、……だから朝から……思い悩むような、ビクビクするような、……小動物的な雰囲気があったのね……」 「え、そんなにびくびくしてた?!」 「……ええ、とっても」    まさか、態度が小動物的だと例えられたといえど、友人にも挙動不審見られていたのは、ちょっとみもりは落ち込む。  とことこと、クマのぬいぐるみが机の上を歩き、手紙を持ち上げる。不思議な現象であるが、彼女たちは特に違和感を持たない。それもそのはず、これは湊橋江梨華の女子力の能力(ちから)。物を操作し、人型であれば手足のように操る等、操作する能力の一環である。 「で……、読んだの……?」 「ううん、まだ」と、みもりはぬいぐるみが持ち上げていた手紙を取る。 「……どうするつもりなの……? そのままにしちゃうの……?」 「いや、さすがにそれは悪いから、読んでからどうするか決める」 「……うん……そうよね……そっちの方がらしいわ……」  と、手紙を広げようと……。   「えりかちゃーーん!!!」  と、今度は聞きなれない大声でびっくりする。  そこには、見知らぬ金髪のショートヘアの女子が現れた。みもりは視線を落とし靴見ると、どうやら、上級生、それも2年生の色をしていた。 「あれ、りかちー、いつの間に先輩と交友関係に?」 「……ええ、まあ、成り行きで……? 図書室でちょっと……」 「あなたが、えりかちゃんのお友達ねっ! こんにちわっ!」 「え、あ、はい! こ、こんにちわ! ご、ごきげんよう」  と、向こうの元気さに圧倒される。と同時に彼女のどこか上品にも思えるしぐさで反射的に、みもりはごきげんようと言ってしまった。 「えりかちゃんっ! 今日も、秘密会議するわよっ! さあ、早く図書室いきましょっ! お友達ちゃん、この子連れて行くわねっ! さあ、目指せ、写真共有アプリ映え!」 「え、ちょっと……」  と、彼女の勢いのまま腕をつかまれ連れていかれる江梨華嬢。そのまま、廊下へと引っ張られていく。    みもりも、勢いのまま廊下まで来て見送ってしまった。    すると、後ろから2人の人物が声をかけてきた。 「やっぱり、クラスまで来てたんっすね! あ、いっちゃった。あ、クラスの方ですか? うちの部長がうるさくて申し訳ないっす!」 「ごめんね。うちの部長が、騒がしいでしょ」  振り返ると茶髪がかった眼鏡の生徒と、その横に一回り小さい生徒が近づいてくる。たぶん、この方達も2年生の先輩のようだ。 「い、いえ、全然」 「そう? なら、よかった」 「先輩方も、もしかして図書室に?」 「はい、そうなんです。これから、江梨華さんと一緒に私たち3人で図書室にちょっとした用事で」 「まあ、私たちの活動の一環てところかな?」 「なんか、楽しそうでいいですね」  と、みもりの一言は当たり障りのないつもりの発言だった。  が、小さい方の先輩は表情が徐々に曇っていった。なにか、地雷を踏んでしまったようだ。 「ええ、多分楽しそうなのはあの子だけ。あの子、変なことに首突っ込むから大変で大変で、それもいっつも私が貧乏くじ引くし、いっつも私ばっか災難にあって、この前も古びた病院に探検とか言って、散々な目にあったし。それに比べていいよね。あの子は気楽で……」 「あ、スイッチ入るの早いっす~! まあまあ、落ち着いて!」  と、小さな先輩が小声でぶつぶつと言葉による言葉の弾幕を広げ、眼鏡の先輩が慰める。  2人の状態にみもりは、あっけにとられていると、そのまま、小さい先輩がぶつぶつ言いながら図書室の方へと赴く。なにか、暗いオーラが立ち込めていたようにも見えた。  と、眼鏡の先輩も「あはは……失礼しますね」と会釈をし、走ってついていく。  みもりは、どう声かけていいものかと迷い、お疲れ様ですとしか出すことができなかった。  改めて、この学校には変わった人が多い。それが、元お嬢様学校から自由な校風に変わったという証拠であろう。また、江梨華の交友が増えるのは、みもりからみてもうれしいし、たぶんいい人たちなのだろう。しかし、いきなりレベルの高い人たちと付き合い始めたなと思えてならないというのは野暮だろうか。   「あのー、宮原さん?」  と。今日は、いろいろと話しかけられる日だ、しかしさっきの図書室の関係者かと思い、声をかけられた方へと振り返る。するとそこには、意外な姿があった。 「あれ? えーと、……C組の村瀬……さん?」 「あら、私の名前知ってるなんて、意外ね」  そう、そこには、腰に左手の甲を添えたポーズで、剣道部のツンツン少女、村瀬真朝が立っていた。 みもりにとっては、隣のクラスの女の子で名前を知っているぐらいで、話すのは初めてだった。   「えっと、まあ、ね」  彼女の名前自体は、江梨華から聞いている。そのきっかけは、前に図書室で江梨華と真朝、2人が少し会話をしたのを聞いていたからだった。悪いと思いながら聞き耳を立ててみれば、お互い、どこかぎこちない会話をしていた。しかし、会話の内容に鑑みると、昔から知っているような会話にも思えた。いうなれば、大昔に喧嘩した後、仲直りの機会が出来ず、そのまま今になって偶然会って会話しているような……。  後で、江梨華に聞いてみれば、名前を教えてもらった後、「ただの腐れ縁」としか言わず、それっきりだった。  喧嘩というのは、例えであり、みもりの想像だ。実際、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。しかし、どこか、彼女らの間にわだかまりがあるように思えた。  なんとなく、江梨華の名前を出してはいけないと思っていたら……、 「まあ、いいわ。で、江梨華いる?」  向こうから、名前が出ていた。どきっとしつつも、 「あ、えーと、りかちー……、いや、湊橋さんは図書室に用があるって。3人の先輩につれられてたよ」 「まさかと思うけど、ハイテンション金髪と、オタク眼鏡と、チビ……ちんちくりん?」  ご本人たちがいないところで、すごい毒吐くなあと思いつつ、 「うーん、まあ、あはは……」 「はあ? マジ? あの3人図書室にたむろしてるとはきいたけど、まさか、図書委員だからってホントにアイツラとかかわるとか……。オカ研のヤツラなんかと」 「オカ研?」 「ええ、あの3人組。うちの学校では有名よ。いたずらか、騒ぎがあれば、その3人の影ありっていうの? 前の集団ヒステリック事件にかかわってないことが意外なくらい」 「は……はぁ、そうなんだ」  その集団ヒステリック事件にかかわってるのは、あなたが探している人であり、話しかけている人も大きく関係があるとはついぞ思わないだろう。 「ま、急ぎの用事ではないし、機会があったら話しかけるわ、じゃあね」 「うん、じゃあね」 「あぁ、そうだ」と、クラスに戻ろうとした束の間何かを思い出したように、真朝は意味深な言葉かけた。 「うちのツレが迷惑かけるわね(・・・・・・・・・・・・・)」  と。    ツレ。みもりも、最初は江梨華かと思いきや、ツレと言ったら、いつも一緒にいる人のことを指す言葉であろう。みもりはいぶかしむも、考えても仕方ないと思い、クラスに戻った。  
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