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水溜まりが広がりそうな空模様にて・④
手紙を出した日とはうって変わって、今日は太陽が隠れることなく、燦燦と輝き、照りついていた。生徒の中には、涼しかった昨日を思い出し、汗を掻きそうになる温度に恨みたくなるだろう。その温度が、最高潮からやや下がる時間帯で、彼女は、校舎内の人気のない場所で独り待っていた。手には竹刀を携えて。
「なんか、これじゃ、果たしに来たみたいじゃないか……」
と美澪は囁くように言った。
竹刀を持ってきたのは、自分を奮い立たせるため。持っていれば、なんとなく勇気が出せそうだから、そんな気持ちだった。そのなか、これから決闘が始まるように見えるかも、と気づいたのは着いてからすぐ先ほど。いざ待っていれば、さすがに向こうもビビッてしまうかもしれない、とも感じていた。
優しい風が、美澪を包み込む。それが、彼女に対して勇気を与えてくれているような気がした。緊張をほぐすために、竹刀を構える。霞の構えと呼ばれる、左足を半歩ほど踏み出しつつ、竹刀の持ち手部分を頭上近くに持ち、剣先を視線の先へと落とす構え方。
この構えが、彼女が『剣術』において最も得意とする構えだった。剣道では、中段の構えで行うことが多いが、この構えがより彼女にとって力強く振れるのだった。
もう一度、風が舞う。到来を待つ。体の中からそわそわする。それは、待つ相手と話せるからか、その先の出来事を楽しみにしているのか。それとも……。
竹刀を思いっきり、振り下ろす。今日一番の手ごたえ。朝、振り下ろした一撃よりも重い気がした。
構えを解く。そして、目を閉ざす。どのくらいたったのだろうか。
もう一度、今度は先ほどよりも強い風が、待ち人の到来を告げる。
そして、かの者は現れた。
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