未来の犯罪者

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未来の犯罪者

 少し離れたところにほくほく顔の男がいた。  ひょろりと背の高い面長の男だ。 「へへへ、後はこの一万円札をどっかに隠して、戻ってから取るだけだ」  そう言いながら、彼は札束の入ったカバンをポンとたたいた。 「おまけに傘まで手に入るとはツイてる。この時代の雨は酷いもんだからな」  そう言って彼はビニル傘をさして、一歩外へ出た。  雨の雫がビニルで弾かれるのを見て、満足そうに彼は笑った。    この男、実は未来人だった。  数百年ほど先の日本からタイムマシンでやって来た。  過去のレースの記録を持っているのだから、勝つのは当たり前。  大儲けできそうなレースで大勝ちし、それを現代と未来で変わらない場所に隠す。  タイムマシンで未来に戻ってからそれを取り出し、古銭として高値で売りさばくというわけ。  もちろんそれは犯罪だが、そこは隠蔽できるよう計画済み。  傘を差して雨から身を守りながら、隠してあるタイムマシンまで戻り、意気揚々と未来へ引き上げた。  だが、未来に戻るなり犯罪者は捕まった。  原因はビニル傘。本来は捨ててこなければならないそれを、彼はうっかり持ってきてしまったのだ。  どんなものであれ、過去の物をタイムマシンで持ち帰れば犯罪だ。  犯罪者を捕らえた捜査官は、悔し気な彼を見ながら大笑いをした。 「はっはっはっ。ようやくだな。当局はずっと前からお前に目をつけていたんだ。これからこってり搾り上げてやるぞ」 「くそっ、こんな間抜けな失敗をしてしまうとは……。計画は完ぺきだったはずなのに……」 「悪は必ず滅びるという事だ。さあ、キリキリ歩け」  こうして犯罪者は厳しい追及を何か月も受けた。  そして、ある日とうとう耐え切れずにこれまでの罪を全て告白した。  彼への判決は下った。  過去を乱した罪は特に重い。  彼はもう二度と太陽を拝むことはできないだろう。
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