捜査官と部下

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捜査官と部下

 勝利の余韻に浸る捜査官に部下が話しかける。 「この傘はどうしましょうか」 「もちろん、元の時代に戻さねばならん。こいつがあの悪党を捕まえるきっかけをくれたんだ。つくづく私はツイていたんだな」 「記念に取っておきますか?」 「バカ者。そんな事をすれば歴史にどのような影響が出るかもわからん。いつもの様に元の時間、元の場所へ送っておけ」 「ハッ、失礼いたしました」  部下はビニル傘を持って去っていった。  建物の一角にある証拠返却室へ部下はやって来た。  そこにある時間転移装置の中へビニル傘を入れた。  過去から持ち込まれた物を適正な時間と場所に転送する装置だ。 「ええと、いつ頃だっけな……」  何しろ、持ってきたときから随分時間が経ったのだ。さすがに覚えてはいられなかった。  そこで、事件の記録を読み直し、彼がどの時点で傘を盗んだのかを特定した。  その資料を見ながら、目指す座標となる日時を入力していく。  だが、このとき彼は重大なミスを気付かぬまま犯した。  ほんの少しだが、傘が本来その場所へ来るよりも早く送り込んでしまったのだ。  部下はそのミスを犯したことを最後まで気づかず、自分は仕事をやり遂げたという達成感までもってその場を去った。
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