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「宇咲。俺はお前を見直した。本当に本当に見直した」
それから翌日の夜、酒を持って遊びに来た蓮司にクラブでのことを報告したら、その場で跪き両手を握りしめられた。
「まさかあのストリッパーとそんなことになってたなんて。やったじゃん、宇咲のタイプの男だったろ」
「ていうか、蓮司。俺のこと置いて別の奴と消えただろ」
「それがあったお陰じゃん! 俺に感謝してもらいたいくらいだね」
ちなみに、偉音からステージに誘われたことはまだ言っていない。そんなことを言ったら、蓮司のことだから絶対見に行くと言い出すはずだ。
「で、どうだったよ。やっぱ何か色々と凄かったのか?」
「ん。まあ、別に……それなり」
「濁すなよ。細部に渡って聞かせろ」
「そんなことよりさ、蓮司。俺達これを機に普通の友達に戻ろう。セックスなしのフレンド」
ベッドにもたれてビールを飲む蓮司が、テーブルに身を伏せた俺を見て笑った。
「彼氏できた途端、固くなりやがって」
「べ、別に彼氏じゃないっ。ただやっぱ、こういうのって違うじゃん。蓮司だって遊ぶ相手いっぱいいるんだから、俺とヤらなくても困らないだろ」
「まあ、確かにな。惰性で宇咲のこと抱いてたけど、宇咲が彼氏できたんなら俺も普通の友達に戻るの賛成」
「だから彼氏じゃないってば。ていうか惰性って何だよお前、失礼だな」
「冗談だよ。宇咲には頑張って欲しいんだ、絶対モノにしろ」
そう言って笑う蓮司もまた、偉音とは違うタイプの男前だった。
頑張る。……何を頑張ればいいんだろう。
偉音と付き合えるなんて思っていないし、向こうだって俺のことは大勢いる誰かの内の一人でしかないだろう。今の俺に頑張れることといえば、もし本当にステージに立った時のために少しでも体を鍛えておくことくらいか。
「よし、それじゃ宇咲の新しい恋になるかもしれない出会いに乾杯」
「あ、ありがとう蓮司」
未知の世界への憧れ。退屈な日々からの脱出。
柄にもなくわくわくして、俺は未だ鳴らないスマホに向けて笑み零した。
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