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あの夜ステージでやったことと比べれば痺れるような刺激も羞恥もないけれど、今までしてきたどの行為よりも温かく幸福に満ちた時間だった。
ベッドの中で転がり見つめ合いながら、俺は偉音の胸元を指でなぞる。この逞しい胸に触れることが出来るなんて、未だに信じられなかった。──夢みたいだ。
「今後、どうするの?」
「さあな。しばらくは今まで通り他から仕事受けて、それをこなすだけだ」
「あいつが絡んでる仕事はしなくていいんだね」
「奴次第だな。土下座して許しを乞えば、また受けてやらなくもねえ」
少し迷ってから、俺はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「……ネオンさんいなくなったら、寂しい?」
「別に。正式に組んでた訳じゃねえし、あいつはあいつで好きなようにやればいいんじゃねえの」
「俺は寂しいよ」
胸元をなぞる指を見ていた偉音の視線が、俺の顔へと向けられる。
「偉音もネオンさんも一人でやったって充分カッコいいけど、……ネオンさんといる時の偉音、楽しそうだったから」
パフォーマンスだけじゃない。食事も、車内の会話も、俺を嵌めようとした時も。
偉音とネオンは正式なコンビじゃないかもしれない。でもそれは肩書きだけの話であって、俺と知り合うずっと前から、二人は既に強い絆で結ばれたコンビだったんだ。
それが今後見られなくなると思うと寂しかった。正直言って応援したい気持ちと寂しい気持ち、半分ずつくらいだ。
「別に、今生の別れじゃねえよ。俺が戻したいと思った時には強引に戻らせる」
「……意地っ張りだな」
「何か言ったか」
もしもネオンが戻って来た時、ちゃんと胸を張って偉音の隣に立てるように。
「俺、偉音のために全力で頑張るよ。だから……」
「………」
「付いて行かせて。……偉音が見てる未来、俺にも見せ欲しい……」
「宇咲」
優しい手が俺の頬を撫で、額にキスをされる。
「言っただろ。お前を俺の物にすると決めたんだと」
「………」
静かに溢れ零れた涙。
俺は目を伏せ、口元に笑みを浮かべて偉音の胸に顔を埋めた。
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