塀の中の午後3時

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「3時になりましたよ」 涼香は看護師さんの呼ぶ声で昼寝から目を覚ました。ここは埼玉県の田舎町にある、精神科の大きな病院だ。涼香はこの精神病院の閉鎖病棟に3ヶ月前から入院をしている。何故3時になったら看護師さんが呼びに来てくれたかと言うと3時はおやつの時間だからだ。一日に使って良いおやつ代は300円位。涼香は1週間2000円のお小遣いしか許されていないのである。乏しいお小遣いの中から捻出して今日はジュースとポテトチップスを食べる予定になっているのだ。 「はい。今談話室に行きます」 涼香は読んでいた漫画本を個室に備え付けの棚に置き、ベッドから飛び起きた。窓の外ではしとしと雨が降っていて昼間だというのに薄暗い。梅雨に入ってからずっと雨の日が続いている。 「今お菓子持って来てあげるから椅子に座って待っていてね」 談話室に行き看護師さんがナースステーションに入るのを確認すると4人掛けのテーブルに座り、辺りを見渡した。お菓子が看護師さん管理になっていない人は既におやつを食べている人も多く、若い男性の患者さんはカップラーメンをすすっている人も多数見受けられる。涼香もカップラーメンを食べる時があるのだが、それを食べると夕ご飯が入らなくなってしまうので、最近はお菓子ばかりだ。 「涼香ちゃん、今日は何を食べるの?」 入院仲間の愛実ちゃんだ。愛実ちゃんは涼香と同じ年位の年齢で10代後半といったところだろうか。双極性障害で今は鬱状態が酷く希死念慮がある為入院になったと聞いた。摂食障害の涼香は双極性障害の気持ちが解らないが不思議とこの愛実ちゃんとは仲が良かった。 「今日はねポテトチップス。愛実ちゃんは?」 「私はクッキーをお父さんに買ってきて貰ってあるの。後で少し交換しようよ」
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