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第十一話:死神教授と呉越同舟
「ふん、嫌になるほど良い天気だな。」
「ああ。」そして沈黙。
気まずい…何とも気まずい雰囲気。それもその筈。いま吾輩は、何処とも知れぬ絶海の孤島に取り残されておる。それも、選りにもよって隣に座って一緒にボーっと水平線を眺めているのは、あの村松藤兵衛なのだ。
何がこうしてこうなったかというと、話は半日ほど前に遡る。
空から人間を一過性に痴呆状態に陥らせるウィルスを撒いて、一気に日本の中枢を掌握してしまおうと言う吾輩の悪魔的アイデアを実現すべく、大型高速貨物機で飛び立った我々一行なのだが、いったいどうやって紛れ込んだものか、離陸してすぐ、貨物室からこいつが出て来た。
後はもう、ご想像の通りだ。貨物が貨物だけに飛び道具が使えなくなり、コックピットは大混乱。輸送機は制御不能となり墜落。命からがら個人用脱出ポッドで逃げ出した吾輩と戦闘員達は離れ離れとなり、気が付くと吾輩一人が、この離れ小島に漂着したのだ。
と思ったら、程なくしてこいつが同じ個人用ポッドを手漕ぎボート代わりに乗って上陸してきやがった。全く、何という生命力の持ち主なのだこいつは。
「よう死神、いつになったら救助が来るんだ。お前は改造されてて本部と通信できるんじゃないのか?」村松が不服そうに言う。
「気安く呼ぶな。吾輩のことは教授と呼べと言っておろうが。それに、そう簡単に行くものか。吾輩は歩くスマートフォンでは無い。電波が無ければ何も出来んわ。」
「ふん、チョーカーの超技術とやらはそんなものか。」
「そういうお前こそどうなんだ。何が喫茶店のマスターだ。お前こそ、政府の犬のくせに緊急通信機材の一つも持っとらんのか?」吾輩の混ぜ返しに図星を突かれたのだろう。村松は不機嫌そうに黙り込む。嘘のつけない奴だ。ふと、そんな藤兵衛の様子に親近感を覚えかけて、慌てて吾輩は気を引き締めた。こいつは敵だ。我々の野望に立ち塞がる敵。ならば、この場で殺すのが最善の答えだ。
それは解っているのだが…。
「そう言えば昔の部下から聞き込んだんだが、お前この間、難病の子供の命を救ったんだってな。死神らしくもないじゃないか。一体どうした風の吹き回しだ?」
「大きなお世話だ。供述調書は読んでいるだろう?あれは単なる吾輩の気まぐれに過ぎん。」
「気まぐれ…、ね。確かにお前達らしいと言えば、らしいな。」藤兵衛は腕を一本づつストレッチするような仕草を見せながら言った。動作に合わせて服の下で筋肉が生き物のようにうねる。「俺もこの仕事を三十年以上やって来たが、お前達のような組織は初めてだよ。」
吾輩は答える代わりに顎で続きを促した。一度くらい、天敵とじっくりと話をしてみるのも一興か、と言う気になっている。
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