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〈 Ⅱ 〉雷サマとカタツムリ
お弁当は奏とお揃い。
昨夜のうちに作っておいたタコさんウインナーも入っている。多分、奏も今、同じものを食べていると思ったら少しほっとする。
「じゃあ、奏くん雷問題克服したの?」
一緒にお弁当を食べるパートの麻美さんは、先輩お母さん。お子さんはもうウインナーをタコにしなくてもいい年齢。
「ねっ、心配しなくても子供なんてそんなものよ。毎日着々と大きくなってる。近くにいたらなかなかわからないけどね」
麻美さんの言葉に、奏の雨合羽が小さくなっていたことを思い出していた。
そう言えば、昨夜お風呂で雨合羽じゃなくて傘が欲しいと言ってたなあ。
雨の日、子供は雨合羽というのは保育園の決まり。危ない物を持って来させないためだろう。
わからずに振り回しても危険だから。
「傘は小学生になったらね」って言ったら、「えー」って唇を尖らせていた。
あんな顔は久しぶりに見たなあ。
奏はわがままを言わない。オモチャやゲームが欲しいと無茶を言うこともなかった。
義母が買ってくれるからかもしれないけど。
だから何かが欲しいと唇を尖らすところなんて、久しぶりに見た。どうして傘が欲しいのかはわからないけれど。
買ってあげてもいいかもしれないなあ、保育園はだめだけど。でもそしたらいつ使う?土日に雨だったら出かけないよね。
ガクさんが亡くなった時は、自分の故郷に帰ることも考えたけれど、三人で暮らした部屋を出たくなかった。奏と二人でなんとか暮らしていられるのは、義父母にも助けてもらっているから。
奏が熱を出して、早い時間にお迎えに行かなければいけないときは義母が行ってくれていたし、体調を崩して保育園に行けないときは、うちに来てくれた。
だから私は職場に迷惑をかけることもなく、転職もせずになんとか頑張れている。
熱を出している奏を置いて家を出るのは、辛いけれど仕方ない。私は大黒柱なんだから。頑張らないと。
キーンコーンという古めかしいチャイムの音で休憩が終わる。
残業はしたくない。延長保育の料金はかかるし、奏を待たせたくない。
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