〈 Ⅱ 〉雷サマとカタツムリ

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その日もお昼過ぎに雨が降ったらしい。 またかなりの雨量。スマホの雨雲レーダーも私たちの街の上だけが真っ赤になっていた。雷もきつかったようだ。 「でも奏くん、最近泣かないんですよ」 迎えに行ったときに保育士さんが教えてくれた。最近ってことは泣いてたのか。 「お兄ちゃんになったね〜」 奏は保育士さんに頭を撫でられて、ちょっと得意そうに笑いながら 「おとうさんがソウに会いにきてるからな」 と言った。 保育士さんがこちらを見るので、首を傾げておいた。 奏は少し小さくなった雨合羽を自分で着て、黄色い長靴を履くと 「せんせい、バイバイ」 と入口で奥に向かって手を振った。 「奏、お父さんが来るってどういうこと?」 手を繋いで歩きながら、自分の傘の雫が奏にあたらないように傾ける。奏に傘を差しかけたら、傘から落ちる雫がかえって彼を濡らすことに気づいたのは最近だ。 手を振って歩く奏の手首が雨に濡れている。早く新しい雨合羽を買わないと。 「カミナリさんはおとうさんやってん」 歩きながらポツンと言った奏は、先日の紫陽花の前に走りよると、またじっと見ている。 「でんでんむし、おれへんなあ」 そう言いながら離れない。 「あー!おかあさん見て!お花の間におる」 奏の指す先に、昨日の小さな小さなカタツムリが、花弁の間に張り付いていた。 紫陽花の花弁に見える部分は、実は額。 額に守られている小さなカタツムリ。 奏もまだまだガクさんに守ってもらう年齢なのにね。 悲しくなるけれど、奏の前では泣かない。 「奏、帰ろう」 そう言って手を伸ばすと、小さな手がキュッと強く握ってくる。ガクさんの分も私が守ってあげるからね。
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