わたしの生存報告

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 扉の先には空が広がっていた。  そこにあったはずのガラスは全て割れていて、足元に破片が散らばっている。彼はそれに気をつけてと言うが、わたしを待つつもりなんかないみたいにさっさと別の階段に向かう。  以前ならここから沢山のビル群が、木々のように立っているのが見えたのだろう。わたしは窓際まで歩いて行きたくなったけれど、不意に向かってきた突風に押し返され、怖じけてしまった。 「あの、すみません」  彼は一段高いところでハッチのような鉄製のドアを開けている。  そこには簡素なスチール製の梯子があったが、どう考えてもリュックを背負った自分のような細い腕の女が登っていけるとは思えない。 「すぐ終わるからここで待ってな」  わたしはそれを拒否して無理やりにでもついていく覚悟ができず、黙って頷くとその場にへたり込んだ。  きぃ、と甲高い音を立ててドアが閉じていく。  たん、たん、と一定のテンポで彼の梯子を登る音が刻まれ始めるが、それもすぐに聴こえなくなり、わたしとリュック、そしてポータブルラジオだけがその場に残された。  何度も風が抜けていく。  その中には砂粒も混ざっていて、わたしは口の中に入ったジャリジャリを噛み締めながら、その場に顔を伏した。こんな時は昔みたいにもっと長い髪のままでいれば良かったと思う。けどいつまでもあの頃を引き()っているみたいで、たぶんそんな自分を鏡で見る度に悲しくなるだけだろう。  あ……。  もうすぐ三時だった。  わたしは中央の階段の傍に身を寄せて風を避けると、ポータブルラジオをセットする。ざりざりと砂嵐の音をさせたが、それが途切れ途切れになり、やがて、彼の声が流れ出した。 『ただ今三時。みなさん、元気ですか? 僕は今日も生きてます』 「わたしも、生きてます。ちゃんと生きて、会いに来ました」  それはいつも聴いているものよりも声に温かみがあって、わたしの目からは自然と涙が落ちていた。  五分くらい待ったろうか。 「終わった」  ドアを開けて出てきた彼はそれだけ言うと、再び無言で登ってきた階段を降り始める。 「あの!」  わたしは慌てて立ち上がり彼を追いかける。 「あのさ」  その彼は何故か階段に続くドアを開けたままで立ち止まり、わたしを見ると、小さく首を振り、こう続けた。 「俺はたぶんあんたが探している人間じゃないからな」  タワーを降りると、彼は何も説明せずにただわたしに付いてくるようにと言った。  歩きながらあの大災厄から彼がどんな風に生き延びて、ここで一人暮らしているのか話してくれたが、概ねわたしたちとそう変わらない状況の中を、今日まで何とか命を繋いだみたいだった。  ほどなくして、ブルーシートを屋根にした即席の住処(すみか)が見えてくる。 「ベッドだけはまともなものがある」  そう言った彼は、少しだけ表情を柔らかくした。
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