わたしの生存報告

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 ランタンで彼が先導してくれるのを頼りに、慎重に梯子を登る。晩御飯に食べたカワハギとイサキのお陰か、握る手にもしっかり力を入れられた。 「ここだ……」  最後に彼の手に引っ張ってもらって放送設備のあるデッキに上がると、スチール製の赤いドアを開け、その中に押し込まれた。  風の音が耳を裂くほどに強い。  まだアナログ波を流していた時代の機械が残っていると説明されたが、目の前のメーターやスイッチのどれがそうなのか、わたしにはよく分からない。  ただその機械の前にあるカセットテープと呼ばれる穴の開いた小さな箱に、彼、大垣条志が声を吹き込んでいったと聞いていた。  電源を確認した彼は、マイクから直接放送できるように設定していく。わたしはそれを見ながら緊張を何とか胸の奥に押しやろうとがんばった。  アナログ時計の秒針が間もなく頂点に重なる。 「ランプが赤になったらこのマイクに向かって喋り始めて。時間は十秒程度しかないから」  わたしは一つ頷くと、首から下げたポータブルラジオを抱きしめた。  半球状のランプが、赤になる。  思い切り息を吸い込む。  それからわたしは、この世界のどこかでみんなに生きる力を与えようとしている大垣条志に届けと願いを込めて、声を絞り出した。 「ただ今三時です。みなさん元気、ですか? わたしは今日も、ちゃんと生きてます」 (了)
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