キツネの呪い

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キツネの呪い

「ふぅ…」 伸びた前髪が邪魔で、何度も髪をかき上げる。 そんな修也(しゅうや)のしぐさに気づいて、伊勢谷(いせや)が言う。 「今日、頭にタオル巻いてないんだね?」 「あ…、ええ…」 ちらりと目だけを上げ、そしてうつむく。 ピーマンの収穫作業をしていた。 大きな影が、自分の返事をもう少し待っているのがわかる。 「今朝…、ちょっと…」 汗をぬぐいながら、遅れた返事をする。 なんてことない会話が、うまくできない。 元々口下手なせいもあるけど、彼を前にすると余計に。 彼はいつも自分を見ている。 声をかけるきっかけをさがしている。 いつも頭に巻いてるタオルがないなんてどうでもいいこと、長引かせるような話じゃないのに…。 「忘れてきちゃったの?」 もぅっ――と、心で毒づく。 仕事中でしょっ。 早く箱づめ係に回さないと。 収穫係が遅れたら全部滞っちゃうんだから。 「…いえ。今朝、キツネを轢いちゃって」 農業の朝は早い。 午前五時。 寝ぼけまなこのままハンドルを握っていると…。 「うわっ!?」 突然、飛び出てきた影。 慌ててハンドルを切ったが間に合わなかった。 バタン!と車を飛び下りる。 その無残な姿に、苦い息をもらす。 「…ごめんなさい、キツネさん」 そう言って、頭に巻いてあったタオルをほどく。 伸びたこげ茶色の髪が、はらはらと風に吹かれる。 そっと遺体を包んでやる。 死んだ動物に同情すると憑かれるなんて言う人もいるけれど、尊い命を自分が奪ってしまったのだから…。 「安らかにお眠りください」 土に埋めてやり、手を合わせた――。
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