〈5〉

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食欲なんてもう出なかったけれど、残りあと僅かだし、ハジメさんに変な心配をかけたくなかったから、無理矢理料理を胃袋に収めた。 「ごちそうさまでした。あぁ、おいしかった」 「おそまつさまでした。 疲れちゃったでしょ」 火の始末をしながらハジメさんが言う。 「え。そんな事ないですけど。そう見えますか?」 私もテーブルの上の食器達を重ねながら答える。 「ん、ちょっと最後ペース落ちてたから」 それは、あなたのせい… ドキドキさせられてる、私だけ。 耳に残る熱い感触、唇が離れた瞬間にふとかかった吐息に気が狂いそうになってるなんて事、 ハジメさんは知らないんだ。 「あー、あのさ。 ホノちゃんが大丈夫なら… 風呂、入りに行かない?」 「えっ?お風呂?」 重ねたお皿を斜めに落としそうになった。 ここにはお風呂はないはずじゃ。昼間のシャワーでおしまいのつもりでいた。 「近くに立ち寄り湯があるみたい。事務所にパンフレットがあったから。 シャワー浴びたけど、あの後もなんだかんだで汗かいたろ。 お湯に浸かれば疲れも取れるかな、なんて」 私の反応をうかがいながら、慎重に話すハジメさん。 断られるかも、なんて思ってるのかな。そんなの、あり得ないのに。 「ほんとですか。私、入りたいです」 「そう?じゃ、ここ片付けたら準備するか」 「ハイ」 かまどの燃えカスや灰をひとまとめにして、食器や網や鉄板もキレイにしてから、私達は車に乗り込んで立ち寄り湯へ出掛けた。 入口で男女に分かれて、中へ入ると人はまばらだった。 おかげでゆっくり湯に浸かることが出来た。 白濁色の、美肌効果があるらしいお湯を両手で掬い上げて、指の隙間から流れるのをぼんやり眺めながら考えた。 これまでの楽しく過ごした時間。 その中の、うっかりドキドキさせられた時間。 そして…これからの時間の事… 再び色めいた音を出し始めた心臓を、どうにかしなくてはいけなくなった。 けど、そうする術もなく、若干のぼせた状態でお風呂を出ると、やっぱりハジメさんが先に外に出ていて、昼間のシャワーの時と同じようにペットボトルを2本持っていた。 「ホノちゃん、顔真っ赤」 「ひぁっ」 その冷たいペットボトルで私の頬を軽く挟んで、ハジメさんはケラケラと笑った。 …
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