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「ったく、アイツは変なところで勘が冴えるな(苦笑)」
お店の脇の細道を入って、裏口の扉の所に連れてこられた。
「う…ごめんなさい。私が余計なこと言ったから」
「ホノちゃん、顔真っ赤」
私の頬に添えられる、ハジメさんの大きな手。
ドキドキしながら、その上に自分の手を添える。
熱を冷ましにここに連れてきてくれたのかもしれないけれど、これじゃ逆効果。
動揺をごまかすために、目を泳がせながら違う話を振る。
「いつも、ここで電話掛けてくれてるんですか?」
「ん?そう、だよ」
言いながら、何故か、私のポニーテールの結び目をほどきだすハジメさん。
「エ?わ、ハジメさん?ナニ?」
まとめていた後ろ髪がサラッと落ちて、後頭部を撫でつけられた。
「あのー、さ。
こんな所で。しかも明るいけど。
…キスしていいですか」
「エ」
私が髪を下ろしたら、その気になった合図。
暗黙の了解になった覚えがないけれど。
それって、その、スル時の事と思ったけど。
自分から下ろすんじゃなくて、こうやって下ろされるのも含まれるの?と思ったけど。
そんな諸々の抗議の思いを、全部押し込めて…
私はこくりと頷いた。
ハジメさんはホッとした顔を見せて、
「恥ずかしがってるホノちゃんが、可愛すぎる」
そう言いながらうなじに手を差し入れて…
柔らかい唇を寄せた。
何度も何度も音を立てて啄んで、唇がちょっと離れる度に、私とハジメさんの呼吸が重なる。
頭がぼうっとなった頃に、頬に添えていたハジメさんの片手がスルスルと首筋を通って、
鎖骨で光っているネックレスのパズルチャームをギュッと掴んだ後で、
服の上から胸の膨らみをそっと揉みしだいた。
「…ン…」
ハジメさん。
エッチ。
これ以上はだめだから。
「ホノちゃん。
ホノカ。
好き過ぎて…ゴメン。
今だけ。
もう、この時間帯には来るな。
…止まらなくなるから…」
「ウン…」
「また…夜電話するな…」
「ンッ…
…待って…る…」
にーさん、お客さん入ったっすよー!という北川の声が聞こえるまでの数分間だけ、
私達は甘くて心地よい世界に身を投じた。
呼吸を重ねて〈完〉
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