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「あの。聞いて貰いたい事があります」
ハジメさんの顔がふと真剣になる。私の指を握る手が強くなる。私にも緊張が伝わった。
「今週末の事、聞いたと思うんですけど。
僕は…
お母さんの許しがなければ、と思っているので…
日帰りで行くつもりです。
…えっ!?あ、いや、日帰りもダメと言われると…
うーんー…それはさすがに心が折れ…
いやいや、心配させるような事はしたくないので…
お許しをいただけるまでは、ふたりでの遠出も自粛します」
言葉はキッパリだけど、思いきり頭をもたげているハジメさん。
そんな。日帰りも否定してるの?お母さん。
ハジメさん、滅多にお店を離れられないんだよ。こうして出来たチャンスを無しにされるのは…そんなのってない。
いてもたってもいられなくなって、ハジメさんからスマホを取ろうとした時、あっはっはとお母さんの笑い声が受話口から漏れた。
「???」
「???」
私とハジメさんが顔を見合わせると、お母さんが何か話し始めたので、ハジメさんは慌てて受話口を耳に宛てた。
「…ハイ…ハイ…
え…ホントですか…
ハイ…ちょっと待って下さ…ハイ、どうぞ…」
言いながら、注文を取る為の紙とボールペンを手繰り寄せるハジメさん。
裏の白紙にスラスラと記す…うちの電話番号と、お母さんの携帯の番号。どうして?
「…ハイ…渡しておくので、後で帆乃夏さんから受け取って下さい。
…ハイ…ハイ…本当に、ありがとうございます。
もう、そちらに帰すので。…え?ハハ、いいです。それだけで、もう十分過ぎます。
じゃ、代わりますね…」
話が全く見えてこない私に、ハジメさんがスマホを返す。
【もしもし帆乃夏?
許可したから。
ハジメさんが私の連絡先を登録する事。
かあさんがハジメさんの連絡先と宿泊先を把握する事。
それが条件。
大事にして貰ってるんだね。
帰ってくるの待ってるよ。また話をしよう】
お母さんの言葉が信じられなくて、思わずハジメさんの顔を見つめた。
ハジメさん、くしゃっと顔を崩して笑っていた。
…
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