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「えぇと…キミは?」
当たり前だけど、知らない子。私の質問なんて聞こえてないみたい、上からベルト付きのロープを投げてきた。
「おねーさん、根性あるね?これ無しで登ろうなんてさ。
って、元に戻さなかった俺らがいけないんだけど。
付けた?そしたら、こっち側から登ってみて」
ベルトをしっかり腰に巻き付けた私は、男の子の誘導で再び崖を登り始めた。
さっきは途切れて探し出せなかった足場が、今度は分かりやすく頂上へと続いているのが見えた。面白いぐらいに楽々とトラバース出来た。
崖の淵に手をかけた時、男の子が手を差し伸べて私を引き上げてくれた。
「ふぅー。ありがとう、キミ」
そう言いかけた時、コースの先からまた別の男の子の声が聞こえた。
「トモー?何やってんだ、みんな先に行っちまったぞー」
「ばっかやろ、シゲルがロープそのままにしやがったから、後から来る人らにメーワクかかったっつーの!」
ごめんごめんと遠くのその子はペロッと舌を出して、向こうへ駆けていってしまった。
入れ替わるように、今度は崖の下にようやくハジメさんが辿り着いた。
「ホノちゃーん?えぇ、ここ登るの?」
「あっハジメさん。このロープ使って。あと、こっちから登り始めると楽ですよ」
ベルトを外してハジメさんの所に投げ下ろした。ひぃひぃ言いながら登ってくるハジメさんがかわいくて、クスクス笑いながら眺めた。
「あのおじさん、おねーさんのツレ?体力無さすぎー。ゴールまでまだ半分以上あるよ。ま、がんばって」
トモー!とまた向こうから呼ばれて、男の子はそんな事を私に言いながら走っていった。
「ふふ…5コしか違わないから」
「エ?何が5コ?」
ちょうどハジメさんもここまで上がってきた。
「ふぅー、やっと追いついたぁー。さっきの子供、ダレ?」
「お疲れさまです。さっきの子は…私もこの崖でつまずいてたんですけど、あの子が登り方を教えてくれて」
あの子と同じように、私もハジメさんに手を差し伸べてグイッと引き上げた。
「ふーん?どこかで見たカオのような…んーっ、気のせいかな。
で、何が5コ?」
「エ?
…ふっ、次行きましょう、ハジメさん」
「エェ?なんなのー」
「へへへ」
引き上げて繋いだ手をそのままに、ハジメさんの一歩前を歩きだした。
5コ。
私とハジメさんの差。
それを埋めてくれるのは…
この、繋がれた手。
「ちょ、っと、ホノちゃん、くすぐったいですけど(笑)」
「エ?あ、ごめんなさい(笑)」
考え事をすると無意識に繋いだ手をこねくりまわす私の癖、手を離そうとすると、ハジメさんの指が私の指の間に滑り込んできた。
「だめ。離すな」
付き合って初めての恋人繋ぎとハジメさんの低い声に、私の心臓がどうにかなってしまいそうだった。
…
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