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あるなんでもない日
靖子はクラスの友達を招待してタコ焼きパーティを開いた。
あのマヤちゃんも一緒。
娘のために。
五人の子供たちがきゃきゃとはしゃいでいる。
はっきりしたのは、自分は子育ては向いていないということだ。康子は痩せ我慢をしながら笑顔を浮かべた。
娘のために。
しかたない。そんな親だっているんだよ。
そう思いながら。
五時になってたら早々に追い返すんだ。
淋しい子は居座る。
暗くなっても帰ろうとしない。
けれど、そこは毅然と帰す。
口の立つ子は、うちは七時まで遊んでもいいと言う。
いや、家には家のやり方がある。
一年後の登校班──
香奈は三年生になった。
もう前から二番目じゃない。
真ん中お姉さん。
騒いでいた女子三人組は卒業し、代わりに一年坊主が入ってきた。
したがって、一年ごとに登校班の雰囲気も変わる。
一年生を見送る若い母親たちがちらちらと康子を見ていた。
どうせ噂しているのだ。
あれが鳩小屋で居眠りしていた香奈ちゃんママだと。
三年生になっても
四年生になっても
この先ずっと
母親たちの間で逸話がつきまとう。
けど、なにもうちに限った話じゃない。
あの子の親は元ヤンだった。
あの子受験に失敗したらしいよ。
お兄ちゃん就職できずにニートだって。
一度ついてしまったイメージは払拭されない。
町ではこういう類の噂話は消えることなく語り継がれるのだ。
こうして母親たちの長い長い子育ては続いてゆく。
「出発するよ」
靖子は香奈の赤いランドセルを目で追いながら言った。
あと三年はお世話になるランドセル。ポケットに今年から導入された防犯用ICタグが入っている。
校門を通過すると親の携帯にメールが送信される仕組みだ。
時に長い道のりを子供は独りで下校する。
安全に配慮した囁かな改革は多少なりとも親を安心させる。
だが、その安心も
けして無償ではない──。
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