下校 七歳の一人歩き

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   少子化の一途を辿る町は、四つある小学校が一校に統廃合された。したがって学校まで道のりは子供の足で優に三十分はかかる。  重たい学用品を子供たちは自ら持って登下校する。  家庭によっては学校まで運んでやる親もいる。パート勤めの康子は論外だ。  住宅ローンを抱え、経済的に余裕がないから働いている。  国もまた働き方なんとかで共働きを推奨している。  だが教育現場はまだまだ母親ありきだ。  PTA役員しかり。  この集団登校だって毎日母親が見守っている。    康子は香奈の手を引き、集合場所の公園へと行った。すでに十人ほどの子供たちが集まっていた。  当番の母親はおしゃべりに夢中になっている。 「おはようございます」  靖子は母親たちに向かって声をかけた。  甲高い声のせいで康子の声が届かなかったのか、それともあからさまな無視なのか。  母親たちから康子に挨拶が返ってくることはなかった。  六年の女子三人組がきゃきゃと騒いでいる。三人が三人ともピンク色のランドセル。  最近のランドセルは驚くほど色とりどりだ。水色、ピンク、流行はチョコレート色。その昔、女の子は赤色と決まっていた。だが、今や赤は少数派だ。  驚くべきはその価格の高騰ぶりだ。子供の背負うランドセルで、家庭の事情が透けて見えるほどだ。  裕福な両親には裕福な祖父母がついている。男の子なら革の質にこだわりり、女の子ならキラキラ刺繍にこだわる。  お財布一つの核家族は十万円もするランドセルなどとても持たせてあげられない。  当然、香奈の赤いランドセルは昔ながらの定番クラリーノ。それでも五万円もする代物だった。    一人の母親が号令をかけた。 「時間だよ! 並んで」  遅れた子供が一人。  背広姿の父親が頭を下げながら連れてきた。  愛ちゃんおはよう  愛ちゃんは今年入学したばかりの一年生。本当なら歩みの遅い一年生が班長のすぐ後ろを歩く。  しかしこの班はいつのまにか香奈が二番目。後ろに一年生の愛ちゃんだ。  並んでみて分かったのは、香奈が幼く見えることだ。  身体だけじゃない。ちょっとしたしぐさ、落ち着きのなさが一年生より幼く見える。  事実幼いのかもしれない。  だって本当だったら香奈は、今年一年生になるはずだった。  不運にも二ヶ月早く産まれてきた彼女は三月がお誕生日の早生まれ。  そうか──  なんとなしの疎外感は育児がうまくいっていないと思われているからだ。    しかたない三月生まれなんだから。    しかたない彼女は成長が遅いのだから。    私だって一生懸命やっている。  育児書見ながらやっている。  しかし、あの目はもっと手をかけろと言いたいのだ。  七時四十五分。  半班長を先頭に小学生の列が出発した。    
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