下校 七歳の一人歩き

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『香奈ちゃんへ、げんかんでまっていてください』  五分後。康子はメモ紙をドアに貼り付け、再び家を出た。  近所の公園、幼稚園、路地、 川縁の土手で低学年が遊んでいた。  あぶない!  香奈が立ち寄りそうなところを手当たり次第に探す。  友達の家に遊びに行っているのだろか。  ママ友のグループSNSに頼ろうか。    康子の指は入力するのを躊躇する。  決まり文句と、ほぼ絵文字だけの康子にとってSNSは抵抗があった。  大げさになりやしなだろうか?  すぐに見つかったら後の火消しが厄介だ。  だから躊躇する。  でも手遅れになってしまったら。  やはりグループに送ってみよう。  ふと見ると、溜まっていた防犯メールに不審者の文字が躍っていた。  刃物所持  バット  声かけ事案  毎日垂れ流されるメール。正直慣れっこになっていた。  どうしてもっと注意を払っていなかったのだろう。 『香奈が帰ってきません。ご存じでしたら返信下さい』  康子は既読スルー覚悟でSNSへ送った。 既読1  一人のママがSNSを見た。 『香奈ちゃん見かけていないよーいたら連絡するね』  康子はこの返信に涙を滲ませた。 既読2 『息子ら田んぼにザリガニがいたって騒いでいたよ』  康子はありがとうの絵文字を送る。  宅地の間にある田んぼ。  近くに柵の切れた用水路がある。  一昨年、未就学児が濁流に飲み込まれ、小さな新聞記事になった。  突然、今朝のメールを思い出した。  あんなこと香奈にあっちゃいけない! 既読4 『うちには来ていないよ。他に聞いてみるね』 既読8 『見つかった?』 『学校に連絡した方がいいと思う』  その後もSNSがぞくぞくと返ってきた。  靖子はとうとう小学校に電話をかけることにした。  出たのは知らない先生。  そして──  担任は研修で留守にしていた。  やっぱりハズレ教師!  康子は悪態をついた。  残っている先生方で校内を探してくれることになった。
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