赤いショートショート:ロッカー

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『赤いロッカー』  ここは都内にある超一流ホテルR。  その女子更衣ルームでは、その日も、社員・パートなどの人々が、それぞれのロッカーで着替え中だった。  そこへ入ってきたのが、今日から始業のチカコと、先輩のカナミだ。  チカコはカナミに案内されて、彼女のロッカーの前にくると、 「私、いつも思うんですけどね、どうしてロッカーって、こんな地味な色なのかなーて……」  さっさと着替え始めたカナミは、 「そんなコト言ったって、ロッカーはこの色って決まってるんだから、仕方ないでしょう」 「私、正社員で入ったんで、私のロッカーの色くらい、好きな色にしてもいいですよね?」 「そーなの……。自分のロッカーだけなら、いいかも……」  チカコも着替えると、持ち場であるフロントへ向かった。  二日後……  ホテルRの通用口で、チカコとカナミは偶然に顔を合わせた。  チカコは、ニッコリ笑って、 「あれから私、さっそくロッカーのドアを着色しました」 「へー。もう実行したの?」  チカコは、横の通路に向かいながら、 「私、ちょっとトイレに行きまーす」  なので、先に更衣室に入ったカナミは驚いた。  チカコは、自分のロッカーのドアを赤く着色していたのだ。  カナミが着替えた頃、チカコが入ってきた。 「どーです。いいでしょう?」 「まーね。とにかく早くね」  チカコはロッカーを開けると、 「大丈夫です。私、早いんで……」  カナミに向かって、ニッコリ笑った瞬間、チカコは突然、ロッカーの中へ吸い込まれた。  キャー!  チカコの姿が消え、勝手に閉まったロッカーを見て、カナミは心配そうに、 「チカコ、大丈夫?」  赤く着色されたロッカーのドアを開けたが……  チカコの姿は何処にも無く、中は普通に衣類や雑品があるだけだった。  ――終――
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