赤いテントと蛇女

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 暫くするとお姉さんが私を迎えに来ました。 「ケンちゃん帰るよ」と手を伸ばします。  お姉さんは蛇女にも物怖(ものお)じせず、 「お邪魔しました」とお礼を言うとクイっと私の手を引っ張りました。  蛇女が手を振ります……六本の指で。 「バイバイ……」  私は別れの挨拶のバイバイさえ言えず、ただ未練がましく蛇女の濡れたような黒い瞳を見ながらお姉さんに手を引かれて赤テントを後にしたのでした。  赤テントの興業はあっという間に最終日を迎えました。勿論あの後、蛇女を見ることは二度とございませんでした。母親と市場に買物に行きますと広場はもうただの広場に戻っておりました。  蛇女を覗き見した木の幹が、あの日の蛇女を思い出させます。私は言いようのない寂しさと言うか切なさと言うか、生まれて初めて胸が締め付けられるような気持ちになりました。今思い出しても胸が痛みます。  私は蛇女ではなく「可哀想でしょ…」と(かす)かに笑ったあの人に恋をしたのかもしれません。半世紀以上も美しいまま私の心に住みつく罪な女性でございます。事実あの人は今も若く美しいままなのでございます。それは何故かと申しますと赤テントが広場を去って三ヶ月程過ぎた頃だったでしょうか。  両親がある新聞記事を真剣な顔で読んでおりました。記事の内容は信じられないものでした。
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