赤いテントと蛇女

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 長々と話してしまいました。結局のところ自分の幼稚な初恋の話を恥ずかしげもなく披露してしまったという所でしょうか。こうやって小夜子さんの名前を口にして私以外の方に小夜子という女性がこの世にいた事を知って頂きたい思いもございました。  人生に於いてナイスパンチを一度も打てなかった私ではありますが、小夜子という劇的な女性と出会った事が唯一の救いのようなものでございます。出来れば伝道者のようにたくさんの方に小夜子さんの話をしたいところですが、そうもいきませんよね。人の初恋の話などそう面白いものでもありませんですから。  最後に小夜子さんを殺したあの白蛇ですが何と今でも"赤テント興業団"で活躍しているそうでございます。死んだとばかり思っていた白蛇が今だに生きているのですよ。白蛇は小夜子さんの気道に侵入した後、自らも苦しんで暴れに暴れ、小夜子さんの喉を突き破って外に出てきたというのです。恐ろしい話でございます。さぞかし今頃は立派な大蛇になっている事でしょうよ。    普通、蛇の寿命は十年前後と言われています。もしかしたらその長寿の白蛇は小夜子さんなのでは……小夜子さんが本物の蛇女になってしまったのではないか……もう、そうに違いないと思うようになりました。クレイジーでございましょ?    今一度蛇女に会いたいなどと思い始めた私は、過去に(とら)われたどうしようもない老いぼれでございます。今晩あたり蛇の檻にでもこっそり忍び入って小夜子さんである白蛇に抱き締められ、いっそそのまま絞め殺されたいなどと──ふふ年寄りの妄想でございます。    あ、赤いテントが見えてきました。      
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