赤いテントと蛇女

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 いよいよ赤テントの前まで来ました。その夜は怪奇物(かいきもの)の物語の中にいるようで、幼い私の興奮は相当のものでございました。テントの中は蒸し暑く人々はパタパタと忙しなく団扇(うちわ)を扇いでおりました。私より小さな子供達は始まる前からすでに怯えているようで、暑苦しく親にしがみついていました。  さあ、見世物の始まりです。  まずは年期が入った衣装を着たピエロが登場しました。白塗りの顔に大きな赤い口のピエロは、子供らを笑わせるより少し怖がらせて、ほんの挨拶がわりのように幾つかの芸を見せると、大仰な挨拶をしてあっさりとスキップで()けて行きました。  その後には何か良く分からない〈|河童のミイラ〉や、〈双頭の狼〉なるものの剥製など、怪し気な物が幾つかお披露目されました。 (いいから早く早く、蛇女出てきて)  私はゴザの敷き詰められた客席で蛇女だけを待ちました。やっと怪し気な物たちが舞台の裾に下がりました。いよいよです。 「紳士淑女の皆様、お待たせ致しました」  私はゴザに膝を着いて首を伸ばせるだけ伸ばしました。 「さあさあ、とくと御覧あれ」 「今宵の主役……」 「……蛇女参上」  客席はしんと静まり返りました。団扇を扇ぐ音も一斉に止みました。そして舞台は暗転し中央にスポットライトがパッと当たったのです。
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